【本の感想】カーター・ディクスン『爬虫館殺人事件』

カーター・ディクスン『爬虫類館の殺人』

カーター・ディクスン(Carter Dickson)『爬虫館殺人事件』(He Wouldn’t Kill Patience)(1944年)は、著者のシリーズキャラクター ヘンリー・メリヴェル卿ものの、第15作目にあたる本格ミステリです。

舞台は、灯火管制下にある1940年ロンドン。

ロイヤル・アルバート動物園は、戦時下のため閉園し、動物を殺処分するよう命を下されています。苦悩するエドワード・ベントン園長。やがて、エドワードは、目張りをされた密室からガス中毒で死亡した姿となって発見されます。絶対的に自殺と思しき状況にあって、エドワードの娘ルイズは、懸命に他殺を主張します。そして、同室で蛇ペイシェンスの死骸を見たヘンリー・メリヴェル卿も、ルイズと同じく他殺であると考えているのでした。なぜなら、爬虫類を愛でていた園長が、蛇を道連れにするはずがないからです(原題の意味がコレですね) ・・・

本作品は、目張り密室トリックの古典なのだそうです。なるほど、密室の作り方は、真相が分かってしまえば何て事はありません。だからこそ、余計、種明かしまで気付けないのが悔しいのです。本格ものは、その時代の背景や道具立てで、如何様にも謎を構築できるのだと認識しました。本作品では、戦時という制約すらも、トリックに一役買っています。

さて、本作品には、ケアリ・クイントとマッジ・パリサーという男女の奇術師が登場します。二人は、祖父の代からの犬猿の仲という設定で、動物園で言い争いをしているうちに、いつの間にか事件に巻き込まれてしまいます。両家を仲違いさせた奇術のネタが解決の糸口になるという趣向だけでなく、ロミオとジュリエットの如き二人が、接近していくというロマンスを織り込んでくれています。

怪しい登場人物たちへのミスリードも効いており、真犯人(そしてその動機)は意外でした。よくよく思い起こせば、伏線は、あちこちにばら撒かれています。これまた悔しい。

ラスト、ヘンリ―・メリヴェル卿の、脅迫まがいの犯人当ては、実に人が悪いですね。本格ものは、人が描けていなくとも気にしませんが、カーター・ディクスン(ジョン・ディクスン・カー)は、キャラクターでも読ませてくれます。

なお、本作品は、創元推理文庫『爬虫類館の殺人』と同じ内容です。

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