【本の感想】ジョン・ディクスン・カー『カー短編全集2 妖魔の森の家』

ジョン・ディクスン・カー『カー短編集2 妖魔の森の家』

ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr『カー短編全集2 妖魔の森の家』(The Third Bullet and Other Stories)(1954)は、カーの不可能犯罪もの短編集です。ちょっと長めの全5作品が収録されており、自分のお気に入りはタイトル作「妖魔の森の家」「第三の銃弾」。H・M卿、フェル博士が登場する、カー初心者には入り易い作品集です。

■「妖魔の森の家」
H・M卿に声をかけたイーヴ・ドレインとウィリアム・セイジのカップル。イーヴは、二十年前に起きた少女消失の奇怪な出来事”ヴィッキー・アダムズ事件”のヴィッキーと会わないか、と誘いをかけます。完全密室状態から姿を消し、一週間後にひょっこりと顔を出したヴィッキー。H・M卿は、興味をそそられ成長したヴィッキーの話を聞くことにします。

イーヴに連れられ、ヴィッキー、ウィリアムと消失の現場と別荘に出かけたH・M卿。ヴィッキーは、当時の記憶がないと言います。しかし、H・M卿の前で、ヴィッキーは再び姿を消してしまうのでした・・・

二十年前の消失事件の真相を看破し、さらに第二の消失事件では猟奇的な殺人事件を解決してみせるH・M卿。ぞくぞくっとするような気色悪さが秀逸です。

■軽率だった夜盗
クランレイ山荘の主人マーカス・ハントは、レンブラントの名画を惜しげもなく客人に披露しています。まるで盗人を呼び込むように。心配する姪のハリエットの悪い予感は的中し、夜盗に侵入されるのでした。皆が駆け付けた時、夜盗は何者かに殺害された後。その夜盗の正体は、何とマーカス・ハントだったのです・・・

自分の屋敷に盗みに入ったハントですが、保険には入っていないため保険金詐欺を働こうとしたわではありません。フェル博士は、夜盗を罠に掛けようとしていたハントの意図を見抜きます。そして殺人犯をスバリと名指しするのです。

■ある密室
フェル博士の元を訪れたアイリス・レインは、相談事を持ち掛けます。雇い主のフランシス・シートンが、アイリスと同僚のハロルド・ミルズを解雇を通告してから二週間後のこと。シートンが執務部屋で殴打され大怪我を負ったのです。その時アイリスとハロルドはその部屋の外で話し込んでいました。事件のあった部屋は完全な密室です・・・

ちょっとした部屋の小道具から真相を見破るフェル博士。ラストはほっこりな余韻を残します。

■赤いカツラの手掛かり
夜発見されたヘイゼル・ローリングの死体。奇妙なことに下着姿でベンチに腰掛けクレオパトラように死んでいました。服はベンチの上にたたんで、彼女の隣に置いてあったのです。女性ジャーナリスト ジャックリーヌ・デュボアは、この事件の解決に自信を見せるのでした・・・

捜査を担当するアダム・ベル警視とジャックリーヌの鍔迫り合いが見所です。犬猿の仲の二人が事件解決でいい感じ、はお約束ですね。

■第三の銃弾
チャールズ・モートレイク判事が射殺されました。判事に恨みを抱いていたガブリエル・ホワイトを追っていた、ペイジ警部の間近で起きた事件です。タッチの差で凶行を防げなかったペイジ警部。発射された銃弾は二発。一発は判事に、もう一発は壁に突き刺さっています。しかし、茫然自失のホワイトの拳銃からは弾丸が一発しか発射された形跡しかありません。壁の弾丸はホワイトのものと判明し、銃は花瓶の中から一丁の銃が見つかります。何と判事の撃ったのは、この二つの銃から発射されたものではなかったのです・・・

密室の犯行現場に被疑者と被害者、そしているはずのない銃を所持していた人物。警視庁副総監マーキス大佐が、関係者に尋問を重ね事件の真相と、第三の銃弾のトリックを暴きます。殺害現場の見取り図が掲載されており、ややこく入り組んだストーリーですが、じっくりと読み解けば満足度は高い作品です。本作品は、カーター・ディクスン名義で長編化されています。

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