【本の感想】ジョン・ディクスン・カー『カー短編全集1 不可能犯罪捜査課』

ジョン・ディクスン・カー『カー短編全集1 不可能犯罪捜査課』

ジョン・ディクスン・カー『カー短編全集1 不可能犯罪捜査課』は、全10編からなる短編集です。10編のうち6編は、ロンドン警視庁D三課課長マーチ大佐が主役で、不可能犯罪の謎を解きます。

マーチ大佐は、一般的にヘンリ―・メリヴェル卿やギデオン・フェル博士よりは知られていませんが、カーのシリーズキャラクターです。3人とも大兵肥満の大男。見た目のインパクトは、H・M卿とフェル博士には敵いませんか。

本作品集のお気に入りを幾つか上げてみましょう。

■新透明人間
ホレイス・ロドマンが、ロンドン警視庁へ慌てふためいて駆け込んできました。向かいのアパートで殺人が行われたと言うのです。犯人は、銃を握りしめた白い手袋。それ以外は、何も存在しなかったと訴えます。マーチ大佐は、早速、殺人の現場であるハートリー夫妻の元へ赴き、実況見分を始めると・・・

実際は殺人事件は起こっておらず、マーチ大佐が、ロドマンが騙されたトリックを暴きます。理屈の上ではなるほどとなりますが、現実世界では不可能でしょう。手袋が人を撃つという奇を衒った事件が、カーらしいですね。皮肉なオチも効いています。

■銀色のカーテン
カードで負けがこんできたジェリー・ウィンストン。デイヴォスという男が声をかけ、ある場所に行くと1万フラン手に入ると言います。ジェリーが現場に行くとそこにはデイヴォスの姿が。ところが、1秒ほど目を離した隙にデイヴォスは、頸部を刺され死んでしまったのです。その時、犯人の姿はどこにも見当たらず・・・

デイヴォス殺害の犯人といて捕らえられたジェリー。殺人犯は、ジェリー以外にいないという圧倒的に不利な状況下にあって、マーチ大佐の慧眼が事件の真相を暴きます。分かってみればごく単純なトリックです。分かってみれば・・・

■暁の出来事
ノーマン・ケインが、目撃者のいる中で、殺されました。場所は、見晴らしの良い岩礁の上。その時、その周辺100ヤードは人っ子ひとりいなかったのです。他殺であることを確認したのは、主治医のヘイスティングズ博士。やがて、死体は、波にさらわれて・・・

マーチ大佐が挑むのは、死体なき殺人事件。今や死体が存在しない、というのが本作品のキモです。思わぬ結末ですが、真相を知るとこれはフェアなのか、という疑問がよぎります。フェアでなかろうが、面白ければ良いのですが。

■目に見えぬ凶器
とある館に集まった人々の話題に上ったのは、そこに伝わる幽霊譚。主は、17世紀に遡る殺人事件が発端だったと、語り始めます。一人の娘をめぐる恋の鞘当ての結末は、13の刺し傷がある男の死体。しかも、凶器はいっこうに見つからなかったといいいます。そして、時は流れ第二の殺人事件。被害者は、娘を勝ち取った男でした・・・

幽霊譚から遡って、過去に起きた事件を解明するというもの。安楽椅子探偵の趣です。この作品には、マーチ大佐は登場しません(ひょっとして、ロンドン警視庁副総監という肩書の人物?)。

■めくら頭巾
クリスマスの夕刻。ハンター夫妻が招待されたのは<<明芝荘>>。到着してみると人気がありません。館内を見渡していく二人の前に、ふっと見知らぬ生真面目そうな女性が姿を現します。三人でくつろぐうちに、彼女は、夫妻にある殺人事件について話し始めるのでした・・・

不可能犯罪の謎解きに、幽霊譚を上手く調和させた作品です。本短編集の中では、一番のおススメ。本作品は、探偵役が現われませんが、スッキリと謎が解決されます。

その他の収録作品は、以下の通りです。

空中の足跡/ホット・マネー/楽屋の死/もう一人の絞首刑/二つの死

読んでいるうちに頭の体操をしている錯覚が・・・。カー短編全集は、5巻まであるんでしたね・・・。

  • その他のジョン・ディクスン・カー 、 カーター・ディクスン 作品の感想は関連記事をご覧下さい。