【本の感想】森絵都『カラフル』
森絵都『カラフル』は、現世にホームステイした”魂”のお話しです。
前世で過ちを犯した魂の前に、美形で優男の天使プラプラが現れます。プラプラは、魂へ、抽選に当たり再挑戦のチャンスを得たと告げます。曰く、現世にホームステイして、過ちを自覚した時、魂は昇天し、輪廻のサイクルへ組み込められると言うのです。
ポップな天使に、自身の死の理由を探るという課題を与えられた魂。ホームステイ先は、三日前に服毒自殺をし、辛くも生還した中学三年生 小林真です。前世の記憶を持たない魂は、真の眼を通して、真の生きてきた世界を見つめていきます。このあたりで、細かな疑問を持って考え込むと、結末の予想がついてしまうかもしれません。ここは、さらりと読み進めるべきでしょう。
魂は、真の置かれた状況から、真の絶望を感じ取ります。自身は惨憺たる成績のちび、父親は悪徳商法に手を染めた会社に勤める利己的な人間、母親はフラメンコ教室の講師と不倫中、高三の兄 満は無神経で意地悪な奴…。おまけに、真は、初恋の相手 桑原ひろかの、援助交際現場を目撃していたのです。
なるほど、中学三年という年頃では、凹むのも宣なるかな。ただ、命を絶つまでか、と言うと、どうもピンきません。自分の繊細さが、歳と共に擦り減ってしまったのでしょうか。
当初、魂は、真に同調する事なく、真の悩みを客観視していました。しかし、プラプラから自分で感じるように、との指導もあって、徐々に真の気持ちが分かってくるのでした。家庭の鳴り止まない不協和音、進学の問題、恋愛の辛い結末といった、真の苦難が続く中、魂は、ついにはリタイヤを申し出るに至ります。
魂が、肉体の持ち主の叫びに気持ちを寄り添わせていく過程は、惹き込まれます。しかし、直木賞受賞作含む短編集『風に舞いあがるビニールシート』と比較すると、文章がフワフワしています。不倫や援助交際に触れられているものの、少年少女の作品なんでしょうね。
ここからラストにかけて、予想通り!真(魂)が、心を開いていく姿が描かれます。父、母、兄の真に対しての、そして家族それぞれへの本当の思いが、明らかになっていくのです。そして、学校でも真の周辺に変化が訪れます。目を開き耳を傾ける事、そして赦す事の大切さを著しているのでしょう。説教臭くはありませんが、命を絶つ前に考えるべき事は、という教訓めいたものを読んでしまいました。いいお話なのにグッとこないのは、ココが影響してるのかなぁ・・・
さて、魂は、プラプラの課題に答えを出すことができるのでしょうか。そして、無事に成仏できるのでしょうか。魂が犯した罪の真相は、おまけみたいなものでしょうね。プラプラの最後のアドバイスは、悩めるコたち全てに響くのかもしれません。
本作品が原作の、2010年公開 冨澤風斗(声)、宮崎あおい(声) 出演 映画『カラフル』はこちら。
本作品が原作の、2018年 公開 ティーラドン・スパパンピンヨー、チャープラン・アーリークン 出演 映画『ホームステイ ボクと僕の100日間』はこちら。タイの映画です。