『MOMENT』、『WILL』に続く、連作短編集です。前二作より先に本作品を手に取ってしまうと、所々、ハテナ?になるので、順に読み進めることを”強く”おススメします。シリーズ完結編としてはこれ以上にな…
【本の感想】本多孝好『チェーン・ポイズン』
本多孝好『チェーン・ポイズン』は、謎の死の連鎖をめぐるミステリアスな作品です。
物語は、死を考え始めた女性が、「一年待ちませんか?」と囁かれるシーンから幕を開けます。ラストは、ここが効いてくるので、ぽっかりとお忘れなきように。
そこから一転、毒物を服用し自殺を遂げた人々を取材する、ジャーナリスト原田の視点に切り替わります。取材対象は、三十代元OLの高野章子、著名なバイオリニスト如月俊、 妻子を殺された被害者家族 持田和夫。原田は個人的な好奇心と嘯きながら、彼らの人生に分け入っていきます。そこには、「死のセールスマン」の存在が・・・
視点は、気力を無くして会社を辞め、気まぐれに孤児院のボランティアに加わった女性に切り替わります。物語は、子供らからおばちゃんと呼ばれる三十代の女性と、原田の視点が交互に切り替わりながら進みます。
如月俊、持田和夫共にきっかけがあってから、一年の猶予をもって自殺を選びました。このことに不審を募らせる原田は、高野章子の事件にその手掛かりを見つけ出そうとします。一方の、おばちゃんは、孤児院の園長、保育士の工藤、サトシら子供たちを触れ合いや、ホスピスのボランティアを経験しても、さほど心境に変化が起こりません。
本作品は、構成にこそ謎の答えが巧妙に仕組まれているので、あらすじを事細かく書いてしまうとネタバレになってしまいます。本作品の醍醐味は、ラストの「おっとそうだったのかい」に一点集約されていると言って良いでしょう(言い過ぎか・・・)。
原田が、ボランティア先の病院、同級生、元同僚と取材を重ねるうちに、高野章子の人物像が明らかになっていきます。この真相に迫る過程はスリリングです。果して、高野章子、如月俊、 持田和夫は、誰によって死に誘われたのか。
一方、おばちゃんは、孤児院の園長余命が少ないこと、息子が遺産狙いで孤児院の閉鎖を目論んでいることを知ります。阻止するには園を買い取らなければなりません。おばちゃんは、保険金を工藤へ残そうと考え始めるのでした・・・
ここに来て、二つの話がリンクしてきました・・・、と考えるのは早計です。それでは、面白くも何ともありません。真相は予想外であり、著者は、最後まで謎を引っ張ってくれます。ヒントは、作中に登場する高野悦子『二十歳の原点』ですね。
説得力に欠けるとしたら、40手前のジャーナリストが、二人の名の知れた人物の自殺といち女性の自殺を結びつける動機でしょうね。
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