【本の感想】伊藤たかみ『雪の華』

伊藤たかみ『雪の華』

共感覚(きょうかんかく、シナスタジア、英: synesthesia, 羅: synæsthesia)は、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる一部の人にみられる特殊な知覚現象をいう。 例えば、共感覚を持つ人には文字に色を感じたり、音に色を感じたり、味や匂いに、色や形を感じたりする。これまでに150種類以上の共感覚が確認されている。

出典:Wikipedia

伊藤たかみ『雪の華』は、共感覚を取り入れた、せつない系のラブストーリーです。

匂いを視覚的に認識する共感覚の持ち主、川上優は、街中で今は亡き 京子の「形」を見つけます。その「形」は、高校時代の同級生 霧島と一緒にいた七海のものでした。「形」が同じ人物は二人といないことを知っている優は、その理由を求め始めます・・・

冒頭からロマンチックな異能の持ち込んで、ぐぐっと読者を物語の世界に引き入れるとは流石、芥川賞作家。この先に期待が膨らみます。

霧島と交際していた京子。そして今、霧島と交際している七海。

京子を想い、そして今、七海に惹かれていく優は、七海の中に京子を見いだそうとするのですが、二人に接点はありません。京子の交通事故死に何らかの裏事情があると考えた優は、七海と共に京子の過去を探り出そうとするのです。

徐々に明らかになる京子、そして霧島の過去。

共感覚で結びつけられた優と京子の出会いが、曖昧であった登場人物たちの関係性をつまびらかにするという趣向です。所々でこの共感覚の表現が使われているのですが、物語を引っ張ってくものではなくて、味付け程度にしかなりません。ラストにはいい味だすのだけれど、何故、本作品に共感覚を持ち込まなければならないかは疑問が残ります。冒頭のシーンがロマンチックであるだけに(出会いでラブストーリーの良し悪しは決まるでしょう?)、途中、失速していくようで残念です。

もっとも、見るべきは、亡き京子を中心とした、今を生きる人々の心の動きなのでしょう

読後感はスカッといかず、どうにも苦さだけが残る作品です。

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