『MOMENT』、『WILL』に続く、連作短編集です。前二作より先に本作品を手に取ってしまうと、所々、ハテナ?になるので、順に読み進めることを”強く”おススメします。シリーズ完結編としてはこれ以上にな…
【本の感想】本多孝好『正義のミカタ ~I’m a loser~』
自分は、群青色の高校時代を過ごしてきました。なので、大学に入ったら心機一転、薔薇色は無理としてもほんのりピンクぐらいの学生生活を送りたい!と熱望し、高校時代の輩が殆どいない地方の大学へ進学するに至ります。これが功を奏したかは分かりませんが、遠い目をして学生時代を懐かしむぐらいのことはできたように思います。
本多孝好『正義のミカタ I’m a loser~』は、いじめられっコとして暗黒の高校時代を送った青年が、大学生デビューで一転、正義の味方になってしまうというお話です。
自分はいじめられていたわけではありませんが、本作品の主人公のように、節目で自分を変えていきたいという気持ちは良く分かります。梶原一騎原作、川崎のぼる 絵『巨人の星』で、漫画家志望のひ弱な牧場春彦が、屈強な男になる夢想をしているシーンを思い浮かべてしまいました(昭和な回想ですみません)。
蓮見亮太は、高校時代、壮絶ないじめにあいながらも、大学(通称”スカ大”!)に合格しました。黒歴史よおさらば!麗しのキャンパスライフを満喫しようとしたところ、何といじめの主犯 畠中が目前に・・・。亮太と同じスカ大に入学していたのです。
畠中から散々にいたぶられる亮太。黒歴史よ再びか・・・退学という考えがよぎります。そこに現われたのは、同じクラスのトモイチこと桐生友一。トモイチは、難なく畠中を撃退し、亮太を”正義の味方研究部”に勧誘します。亮太のいじめ(られ)で培った反射神経に目をつけていたのです。
”正義の味方研究部”は、「正義の味方はどういう存在であるべきかを研究し、大学内で実践する活動」。部員は、トモイチ、西城優姫、大黒一馬、室井亘、そして伝説の人 佐山崇 部長です。彼らが学内に起きた様々ないざこざを、ある時は知力、そしてある時は腕力で解決に導きます。
本作品は、出だしからポップな展開です。いじめられっコの華麗な人生逆転ものでしょうか。先輩らと共に、サークルのセクハラ事件を解決したり、クラスのヒーローに祭り上げられたり、トモイチと友情を育んだり、気になる女子 蒲原さんが現れたりと、典型的な青春小説の様相を呈します。すらすら読めはします。しかし、味わいがない・・・。おまけに、”正義の味方研究部”の正義の押し付けに辟易としてくるのです。
このまま終わってしまうの?と、思ったところで、波乱の予感。亮太が怪しいサークルへの潜入捜査を行ったあたりから、予想外の展開となります。潜入先である「スイート・キューカンバーズ」間先輩の上昇指向に、感化され始める亮太。くわえて、知りたくなかった蒲原さんの過去。世の不公平感が、亮太に重くのしかかります。
クライマックスは、亮太の決断が描かれます。「スイート・キューカンバーズ」の秘密とは何か。”正義の味方研究部” V.S.間先輩の間にたって、亮太はどのような行動に出るのでしょう。後半は、自分の生き方を考えちゃうたぐいのお話しへと向かうのですね。綺麗にまとまり過ぎるようにも思えますが、この結末は、成長小説としてアリでしょう。「I’m a loser」。”ミカタ”は、”味方”であり、”見方”でもある・・・なるほどねぇ。ラストは、清々しさが満開です。感動を欲するのは、贅沢かなぁ・・・
自分の学生時代は、「自分らしく生きる」何て事考えもしなかったよ・・・
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