【本の感想】本多孝好『真夜中の五分前』

本の感想 本多孝好『真夜中の五分前』 side-A

side-Aとside-B 二分冊の本多孝好『真夜中の五分前ーfive minutes to tomorrow』。side-Aの物語をside-Bでどんでん返ししてくれるのか! 読み始める前から想像が膨らみます。期待度のベースラインは、乾くるみ『イニシエーション・ラブ』です。

■side-A
広告代理店に勤務する”僕”は、デキる上司の小金井女史から一目を置かれる26歳。様々な女性と浮名を流しながら、クールに仕事をこなします。ただ、優秀だけど何事にも身が入りません。著者の作品によく登場する、アメリカンな匂い漂わせた気になる男です。

”僕”は、恋人 原祥子に別れを切り出されてしまいます。交際していた秋月水穂を、6年前事故で失ってから、女性と肉体的に愛を交わすことができなくなってしまったのです ・・・

水穂は少し遅れた時計が好きだった、という設定で、タイトルの意味を示唆するようです。”僕”は、過去から抜け出せない男でありながら、湿度は高くありません。著者の作品の主役は、辛い状況下にあってもクールを装う人物であることが多いように思います。

ある日、”僕”は同じプールに通う日比野かすみから声をかけられます。かすみは、弁護士尾崎との結婚を控えた一卵性の妹、ゆかりへのプレゼントを、一緒に選んで欲しいと言います。うんうん、無理目ではありますが、男女の小粋な出会いのシーンです。この事をきっかけに、”僕”は、かすみとデートを重ねるようになります。しかしながら、恋愛にはなかなか発展していきません。実は、かすみは、ゆかりのフィアンセ尾崎を心から愛していたのです ・・・

これはまた、王道の恋愛小説ですね。二人のじれったい関係がやや暫く続きます。そして、ついにクライマックス。水穂の事を知ったかすみが、”僕”の心を解きほぐすように一夜を共にします。

side-Aは、”僕”が勤める会社の内紛劇(と色恋沙汰)、そして”僕”の新たな愛の始まりが描かれています。本作品は、心に傷をもつ男が、愛を再生させる物語?さて、side-Bはどのような展開を見せてくれるのでしょう。

本の感想 本多孝好『真夜中の五分前』 side-B

■side-B
side-Aから物語は一転、冒頭は、かすみの葬儀が執り行われています。かすみは、ゆかりとスペインからセビーリャへ向かう旅の途中、列車事故で命を落としてしまったのです ・・・

なるほど、side-Aとside-Bはガラリと様相が変わりますね。しかしながら、二分冊にした意味はどこに? 時系列としては、side-Aの続きがside-Bなわけですから。

”僕”は、会社の取引先の野毛さんに引き抜かれ、独立してプロデュース業を営んでいます。持ち前の有能さを発揮して仕事は順風満帆です。ただ、ゆかりと結婚した尾崎と同じく、かすみの死に違和感を抱いています。

かすみは、ゆかりと入れ替わっているのではないか、と。

”僕”は、苦しみを露わにする尾崎に頼まれ、ゆかりと会うことになります。”僕”の目を通して真偽を確かめるために ・・・

かすみは、妹の死に乗じて尾崎との結婚生活を手に入れたのでしょうか。そうだとするならば、”僕”を切り捨てたことになります。ゆかりの言動、行動の中から、かすみを見出そうとする”僕”。かすみとゆかりは、容姿が同じだけではなく、幼い頃から日々の行動を共有し続けていたという設定で、”僕”は混迷を極めてしまいます。

さて、真相は ・・・

side-Aと違ってミステリアスな展開のside-B。謎の決着はもちろんのことですが、本作品は”僕”がどう過去と折り合いを付けていくのかが見所です。”僕”の成長の物語としても読むことができますね。読む前の予想が覆ってしまいましたが、恋愛小説のside-A、ミステリのside-Bと考えるならこの二部構成もありなのかなとは思います。

タイトルの意味は、ラストの1頁でわかります。響くかどうかは別として・・・

本作品が原作の、2014年公開 三浦春馬、リウ・シーシー 出演 映画『真夜中の五分前』はこちら。

2014年公開 三浦春馬、リウ・シーシー 出演 映画『真夜中の五分前』
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