自分の残念な容姿に気付いてしまった女子の物語です。主人公きりこが色々学んじゃうことを通して、読者へも勇気を与える人生の教科書となっています。前半の飛ばし気味の笑いは失速するのですが、総じて愉しく読ませ…
【本の感想】西加奈子『きいろいゾウ』
西加奈子『きいろいゾウ』は、田舎に越してきた都会育ちの夫婦の物語です。
夫は武辜歩(むこあゆむ)、通称「ムコさん」。妻は妻利愛子(つまりあいこ) 、通称「ツマ」。売れない作家のムコさんは、生まれつき小さな心臓で体の弱いツマと、つつましい暮らしを営んでいます。
ご近所のお年寄りアレチさんとセイカさんご夫妻、ふらりとあらわれる犬のカンユ、あちこちでフンをまき散らすチャボのコソク、登校拒否の大人びた小学生 大地君、大地君に猛アタックの高飛車 洋子、元漫才師のつよしよわし。ムコさんとツマ、そして周囲の人々(動物たち)の、大きな事件が起きるでもなく、ほっこり長閑な日々がつづられます。
シアワセいっぱいのムコさんとツマ…のはずなんですが、ムコさんの背中には大きな鳥のタトゥーが彫られており、ツマは生き物の声が聞こえるという特異(?)体質。毎晩、ひとり部屋に閉じこもって日記をしたためるムコさん。突然、激しい感情にとらわれるツマ。所々、挿入されるツマの夢とおぼしき童話「きいろいゾウ」。
ムコさんの突発的なプロポーズを受け、ツマは、即、結婚を承諾してしまったのです。ムコさんとツマは、肝心なところですれ違っているように見えます。ゆるゆるの展開かと思いきや、なにやら暗雲がたち込めてくるのです。ムコさんの秘密に引っ張られ、どんどん読み進んでしまいますね。ツマは、ムコさんの心に忘れられない誰かが住んでいることを感じ取っているようです。この、じれったさ、恋愛小説の王道フォーマットではないですか(夫婦だけど)。
小説が売れ始めたムコさんは、編集者と打ち合わせのために、ひとり東京へと向かいます。実は、ムコさんは過去と対峙しようと決意していたのです。それを敏感に察知したツマの沸騰ぶりは、切なさ満開です。
お互いの気持ちにどこか踏み込めない不器用なムコさんとツマの夫婦はどうなる?それは、予想通りの結末です。その表現の仕方がステキと思うか、あざといと感じるか、分かれるかもしれません。アレチさんの過去にまつわるエピソードを、ムコさんの思いとだぶらせるあたり、流石でございます。(大地君のツマへの一途な恋心と、それを受け止めるツマがステキ)
さて、幼い頃のツマが夢見た”きいろいゾウ”は、何を表しているのでしょう。自分は、ツマを孤独から解放してくれるものを象徴しているように捉えました。どうかな?
本作品が原作の、2013年公開 向井理、宮崎あおい 出演 映画『きいろいゾウ』はこちら。
エピソードは、端折られているものの、大まかなストーリは原作と同じです。激情を抑えられない女性を宮崎あおいが、見事に演じています。彼女を支える向井理の抑えた演技も好感が持てます。自分は、ネコっぽい感情の起伏の激しい女性に弱いものですから、すっかり向井理になりきってしまいました(似ても似つきませんが)。本筋ではないものの、つよしよわしの漫才シーンがないのは、ちょっと残念です。
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