【本の感想】東野圭吾『赤い指』

東野圭吾『赤い指』

2006年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第4位。
2007年 このミステリーがすごい! 国内編 第9位。

世間的に評価の高いミステリ作家は、ついつい敬遠してしまいます。東野圭吾もそういう作家の一人(後は宮部みゆきかな)。出遅れた感が、どうしても拭えないのです。ちょくちょく読み始めていますが、人からおススメされるか、映画を観たついでに原作の方を、というきっかけが必要です。読み易さは抜群ですが、アタリ、ハズレがはっきりしているから、手に取るのを躊躇してしまいます。

東野圭吾『赤い指』は、加賀恭一郎シリーズの第7弾。おススメ本として借りましたが、こちらは、評判通りの素晴らしさです。『手紙』のような、ホロリとくる作品に仕上がっています。泣ける東野圭吾といったところでしょうか。

前原昭夫は、妻 八重子からのただならぬ様子の連絡を受け帰宅すると、庭に少女の死体が横たわっていました。どうやら中学生の息子 直巳が少女に手をかけたようなのです。警察に連絡を取ろうとする昭夫に、直巳の将来を案ずるあまり、頑として抵抗する八重子。挙句、八重子は、少女の死体をどこかに捨ててきて欲しいと昭夫に懇願するのでした・・・

昭夫と八重子は、長い間夫婦としてしっくりいっていません。八重子と昭夫の父 章一郎、母 雅恵との関係が悪化して以来、亀裂が入ってしまったのです。直巳は学校からいじめを受け、事あるごとに昭夫と八重子に当たり散らす始末。本作品の冒頭から、気持ちの上でばらばらとなってしまった昭夫一家の成り立ちがつづられていきます。暫く目にするのは、ステレオタイプの壊れた家族のお話です。直巳が少女を殺害したこの頃、昭夫一家は、痴呆症を患った雅恵のいる実家に同居をしています。

八重子の権幕に押され、少女の死体を近くの公園に遺棄した昭夫。八重子、直巳の勝手極まりない所業は噴飯ものですが、警察への応対方法を練習するなど、殺人を隠蔽するという目的のために、一家は昭夫を中心に団結し始めます。蔑まれていた昭夫が、主導権を握り始めるという逆転劇が面白いですね。

事件は直ぐに明るみとなり、警察官が、昭夫の家にも聞き込みにやってきます。ここに登場するのは、所轄の刑事 加賀恭一郎。阿部寛のイメージが強いキャラクターで、原作を読むと上手く演じていたことが分かります。加賀の慧眼は、前原一家の綻びを一瞬のうちに見抜いてしまうのでした。捜査を重ね、徐々に真相っていく加賀。焦りを感じた昭夫は、何も分からない雅恵の、痴呆が原因の仕業として、警察に自首することを決意します。

やってはいけない最悪の隠蔽手段。そこで加賀は、事件を家族自らの手によって解決させようと、寄り添っていきます・・・

なるほど、良心の呵責をくすぐっちゃうという手法か。評価が高い理由が分からんなぁ・・・と、思いきや、事件の結末では、タイトルの意味を含めて、ぐっとくる意外な真相が明らかになります。一度、ここでホロリ。

加賀とコンビを組む警視庁の松宮脩平は、加賀と従兄の関係です。加賀が、死期の近い父 正隆に会おうとしないことに、苛立ちを覚えている松宮。父のいない松宮にとって、伯父 正隆は大恩ある人だったのです。何故、加賀は父と会おうとしないのか。このサイドストーリーが、前原一家の物語と重なっていきます。

ラストは、この何故が氷解します。最終ページの最後の加賀のセリフに、二度目のホロリです。泣かせるなぁ・・・

本作品が原作の、2011年 放送 阿部寛、溝端淳平、杉本哲太 出演 ドラマ『赤い指』はこちら。

2011年 放送 阿部寛、溝端淳平、杉本哲太 出演 ドラマ『赤い指』

原作を読んで、すぐさまDVDをレンタルし、三度目のホロリを味わいました。オリジナルキャラクター(黒木メイサ)はいるものの、ストーリ―は原作通り。とにかく、雅恵役の故 佐々木すみ江が良いのです。これは、加賀恭一郎シリーズを最初から読んでみねばなりますまい。

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