【本の感想】米澤穂信『愚者のエンドロール』

米澤穂信『愚者のエンドロール』

シリーズものは時間を空けると、何のこっちゃとなるので厄介です。基本的に自分は挫折本はないのですが、挫折シリーズは結構あります。古くは平井和正『幻魔大戦』、三年ぐらい前だと全14巻購入済みの北方謙三『三国志』。いやいや、シリーズを完読しなけりゃ挫折本でしょう、というご意見を聞くと、中断ですと答えるようにしています(どうしても挫折本と言いたくない)。

米澤穂信 <古典部>シリーズも、『氷菓』を読了してから、『ふたりの距離の概算』まで積んであるものの手つかずです。このままでは挫折シリーズを増やしてしまう・・・・(リンクをクリックいただくと感想のページに移動します

『愚者のエンドロール』は、省エネ男子高校生が、日常の謎を解く、古典部シリーズの第二弾です。

前作『氷菓』で、廃部寸前の神山高校「古典部」を入部して救った(?)折木 奉太郎(ホータロー)、千反田える、福部里志、伊原摩耶花の4人が、本作品でも学内に起きた謎に挑むのですが、殺人も暴力沙汰もないので、良い子も楽しめる内容となっています。刺激的な事件ではないのに、決して飽きさせないというのが、本シリーズの凄さなのでしょう。

上級生が制作した文化祭向けのミステリー映画「古丘村廃村殺人事件」が、頓挫しました。撮影の途中で、脚本担当の本郷真由が、メンタルダウンしてしまったのです。どうしても完成にこぎつけたい入須冬美は、ホータローらに映画の結末を推理して欲しいと頼みます。それは、書かれていない脚本の、不可能殺人の犯人と殺害方法を、期限内に提示するというもの。面倒ごとが嫌いなホータローでしたが、千反田えるの勢いに負け、渋々、お手伝いをすることになってしまいます・・・

相変わらずのメンバーのキャラは、きっちりと役割が明確で、前作から間を空けても、ストーリーにすっと入っていけました。あぁ、懐かしの友達と再会!の気分です(もっとも、皆、自分の孫のような歳ですが)。本作品の新キャラは、学内でも一目置かれる入須冬美。美貌の「女帝」然とした先輩役です。

ホータローらは、映画の関係者で、我こそはと名乗りを上げた「探偵」、中条純哉、羽場智博、沢木口美崎 3名のインタビューを試みます。一つの事件に様々な探偵が推理を述べ、二転三転しながら真相を導き出すという点で、アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』のまさにオマージュとなっています。コナン・ドイルのシャーロック・ホームズの諸作品が、事件解明の小道具で登場するなど、本作品は、著者のミステリ愛を感じることができますね。

全ての推理を却下した上で、ホータローが出した結論こそ真相・・・のはずだったのですが、ここからまた二転三転。物語の前後のチャットシーンを含めて、良く練られた作品です。(あの人が登場するので、前作は読んでいなければいけません)

タイトルの「愚者」は、本作品内でつけた千反田えるのシンボル。「エンドロール」も、本作品の余韻を上手く表しています。お見事です。

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