【本の感想】米澤穂信『ボトルネック』

米澤穂信『ボトルネック』

東尋坊から落下した嵯峨野リョウは、気がつくと実家のある金沢市に舞い戻っいました。家に帰ると見知らぬ女のコ サキがいます。サキは、嵯峨野家にリョウというものはいないと言います。どうやらリョウは、自分が生まれなかった別の世界へ来てしまったらしい ・・・

米澤穂信『ボトルネック』は、自身の存在しないパラレルワールドへ迷い込んだ男子高校生の物語です。

リョウの両親は仲違いをしておらず、亡き兄のハジメは生きています。二年前に不慮の死を遂げた恋人 諏訪ノゾミも元気です。町並みも微妙に違っています。

リョウの代わりとして、この世界で生きているサキは快活です。サキはリョウと分かり合おうとするのですが、リョウはサキへのネガティブな態度を崩しません。

リョウのいない世界は、全てが好転しているかに見えます。リョウは、自身が元の世界のボトルネックだと思い始めるようになるのでした。リョウとサキが続ける間違い探しの行為は、増々、リョウに辛い事実を突きつけます。

リョウの行為が、歯車を狂わせたわけでありません。では、リョウの存在そのものに問題があったのでしょうか。誰もが、思春期には自身の存在価値に疑問を持つものです。それは、”もし自身がいなければ”の仮説であって、実際に自身が存在しない世界を目の当たりにすることはありません。本作品のリョウは、存在価値への疑問に対して、明確な答えを見付けてしまいます。何ともホロ苦い青春小説です。

あり得ない状況を、上手く日常に溶け込ませているストーリー展開は、一読の価値ありです。パラレルワールドものは、やっぱりラストがお楽しみ。

本作品のラストは、色々な解釈ができるでしょう。夢オチは論外として、自分は、あまりに残酷な結末を予見してしまいました。なので、ここは明快さが欲しかったですね。

石ノ森章太郎『番長惑星』も、高校生が主人公のパラレルワールドものです。こちらの主人公 等々力リュウは、合体してパワーアップします。

石ノ森章太郎『番長惑星』
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