自身の存在しない世界へ迷い込んだ高校生の物語。彼の間違い探しの旅は、自身の存在価値への疑問となって表れます。あり得ない状況を日常に溶け込ませるストーリー展開は一読の価値ありですが、ラストは明快さが欲し…
【本の感想】米澤穂信『氷菓』
流行に乗り遅れてしまうと、知らんぷりしてやすり過ごすしかありません。自分のような流されやすい性格は、中途半端に手を出してしまうと翻弄されてしまうだけだからです。
本のベストセラーは、殆どタイムリーには読まないのですが、それでもあちこちで話題になると落ち着きません。気にはなるので沈静化した頃におずおずと手に取って、「皆が面白いと言う本は、やっぱり面白い!」と、自分の平凡な感性を確認するのです。
有川浩『図書館戦争』、スティーグ・ラーソン『ミレニアム』、ダン・ブラウン『ダビンチ・コード』 ・・・・
本は腐らないけれど、語り合うべきことが既に語り尽くされているという意味では、鮮度が落ちてしまいます。
米澤穂信『氷菓』も、そういう一冊です。高校の古典部を舞台とした青春ミステリであることは、アニメ化されているゆえに、読まなくともいつの間にやら知識として入っています。
本作品は、神山高校古典部 折木奉太郎が、日常に起きた謎を解く「古典部シリーズ」の第一弾です。奉太郎が、渡航中の姉に手紙で強要され、廃部寸前の古典部に入部するところから物語は始まります。
主人公 奉太郎は、積極的に物事に関わらない省エネ主義者です。斜に構えるわけでもなく、屈折しているわけでもなく、無気力なわけでもない。可もなく不可もなく学生生活を送っているグレーな存在は、昔も今も大多数高校生の実態でしょう。
奉太郎は、周囲とつかず離れずの態度を貫きますが、推理力はピカ一で、その点では信頼を集めています。面映いキャラクターであり、共感し易いし、シリーズを通してどのように成長していくかが楽しみです。
本作品では、奉太郎が、同じく古典部に入部した千反田えるに振り回されつつ、えるの失踪した伯父と、彼にまつわる33年前の文集「氷菓」の謎に挑みます。ハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』やジョセフィン・テイ『時の娘』を思い起こさせる、奉太郎の論理思考の冴えが見所です(言いすぎか)。
結末は、ある年代には懐かしさを覚えます。「氷菓」って、あれの事なっ!。・・・ご愛嬌です。
奉太郎、える、奉太郎の親友 福部里志、里志に思いを寄せる伊原摩耶花といった、キャラクターたちは、今後どのような活躍をみせてくれるのでしょう。奉太郎の姉、そして桁上がりの四名家が、どう絡んでくるのか、想像するとワクワクします。
本作品は、そもそも「古典部」って?という解決しない謎を含めて、続きが気になる上々の導入部となっています。問題は、次作『愚者のエンドロール』を、いつ読めるかってことなんだよなぁ・・・
本作品が原作の、2012年 放映 テレビアニメ『氷菓』はこちら。
本作品が原作の、2017年公開 山崎賢人、広瀬アリス 出演 映画『氷菓』はこちら。
ストーリーは原作に忠実であるものの、奉太郎役 山崎賢人の脱力感、える役 広瀬アリスのキラキラ感は強調し過ぎのように感じました。ラノベ的に観るならアリなんでしょうが、是非二作目を!とはなりませんねぇ・・・
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