【本の感想】氏家幹人『江戸人の老い』

テレワークを半年も続けると、筋力の衰えに加え、腰痛を感じるようになりました。坐骨神経痛なる症状もみられ、体に関しては、老化が一層進んでいる今日この頃です。体がアカンと、気持ちも老化してしまうのでは、と心配になりますね。そう言えば、テレビを見ていてタレントの名前が思い出せないこともしばしばです。

という、今の自分にぴったりの読み物が、氏家幹人『江戸人の老い』。文献を紐解き、江戸時代の老人の姿から老いを考え直す試みです。

本書は、著者が、40半ばで老いを感じ、ものした本とのこと。自分は、この年代は元気溌剌だった(はず)なので、作家さんのようなテレワークにさも似たりのお仕事は老化も早いのだろう、と思うに至りました。初版から20年たった著者の現在は、老体(?)に年齢が追いついたでしょうか。

江戸時代は、平均寿命が30代を聞いたことがありますが、これは乳幼児死亡率が高かったからだとか。著者は、文献等から80代、90代の老人は大勢いたことを読み解いています。なるほど、長寿は、大名などの栄養満点な上級国民だけではなかったのですね。

本書は、鈴木牧之、徳川吉宗、敬順、といった江戸時代の3名の老人を取り上げています。徳川吉宗は、言わずもがなの徳川八代将軍ですが、鈴木牧之、敬順の名は知りませんでした。鈴木牧之(ぼくし)は、随筆『北越雪譜』の著者で、その名は殆どの歴史辞典・人名辞典に見られるとか。敬順は、紀行文『遊歴雑記』を著した隠居僧だそうです。要するに、何れも著名人と(とりあえず)理解しました。

3名の老人は、それぞれの老後を送りました。牧之は、遺書に家族に不満をぶちまけるほどの不幸な晩年。中風となって身動きもままならない牧之が、如何に冷遇されているかを、事細かに書き記しています。全く酷い話なのですが、実は、元気な頃の牧之は、度が過ぎるぐらいの偏屈者で、邪慳にされるのも宜なるかな。因果応報なれど、老人にとっては理不尽決まりないという勝手な嘆きです。仕事もですが、若い人のやることに口うるさいのはいけませんね。

徳川吉宗は、将軍職を退き大御所となった折、脳卒中に見舞われます。言語障害に半身不随の身ながら、介護スタッフが懸命のサポートをしたとのこと。ここは、流石に歴史に名を残した天下の大将軍。本書では、吉宗の介護の様子が詳細に書き記されていますが、先の鈴木牧之とは正反対の至れり尽くせり。吉宗と一歳違いの御側衆 小笠原石身守の献身(というか老々介護)は、涙ぐましいかぎりです。

敬順は、牧之、吉宗と違い元気な老後を生きた人です。清貧の隠者を装いつつも、お仲間の老人たちと、由緒ある神社や建物に落書きをしてまわるという、ちょとした悪さを楽しんだとこのと。所謂、ちょいワルじじいですね(迷惑じじいか)。日々、老人会の仲間と馬鹿話など、現代でも理想的な老後ではないでしょうか。著者も敬順の老後に魅力を感じていますね。

隠者の自由と社交の愉悦を享受しつつ旺盛な批判精神によって社会と関わり続けたその老いぶりに、私は感嘆せずにはいられない。敬順のような老後を送りたい・・・・・。

自分は、少なくとも、健康寿命を延ばして他人に迷惑がかからない老後を目指します。さぁ、ストレッチ、ストレッチ・・・。