【本の感想】ジョー・ゴアズ『狙撃の理由』

ジョー・ゴアズ『狙撃の理由』

さしたる意欲もなく、ずるずると読み進めている作家がいます。ジョー・ゴアズ(Joe Gores)がその一人。そこそこ面白くはあるけれど、大傑作とまではいかない。読まなくてもよいと思いつつ、古書店で見かけると手に取ってしまうのです。こういう作家が何人もいるから、積読本が減らんのよな・・・

著者の『狙撃の理由』(Wolf Time)(1988年)は、自身を狙撃した犯人を追う追跡劇です。

妻を亡くし、ミネソタの森へ隠棲したホリス・フレッチャー。11月の冬の日、鹿を追うフレッチャーに、三発の銃弾が撃ち込まれます。瀕死の重傷を負い、身体が不自由になったフレッチャーは、何故、狙撃されなければならなかったのか、その理由が分かりません。

誰が、何のために。フレッチャーは、逡巡した挙句、狙撃犯を追跡しようと決意します。

事件の背景に、フレッチャーの青年時代の友人であり、大統領選に出馬しているギャレッド・ウェスタガードの意志が働いています。犯人は、早々に明らかになるため、まさにタイトルの狙撃の理由が興味の中心となるでしょう。

フレッチャーの綿密な捜査活動、人生に大きな影響を与えたインディアン チャーリーの想い出、沸騰する大統領選の舞台裏・・・。これらのシーンが、交互に切り替わりながらストーリーは進みます。本作品の重厚さに一役かっているのでしょうが、これが実にじれったい。だが、じれったさが堪らないのです。

本作品で際立っているのは、キャラクターの心の機微が、微に入り細を穿つが如く描かれている点です。特に、フレッチャーと娘ニコール(大統領の元愛人であり、スピーチライターの妻)の愛憎は、読んでいてヒリヒリするほどに奥深いですね。

フレッチャーが真相に辿り着いた時、大統領選、そしてチャーリーとの回想に決着がつきます。クライマックスは、多いに盛り上がるのですが、さてさて、ラストは・・・

うんうん、こういう結末も嫌いじゃありません。

(注)読了したのは角川文庫の翻訳版『狙撃の理由』で、書影は原著のものを載せています。

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