【本の感想】小山田浩子『穴』

2013年 第150回 芥川賞受賞作。

小山田浩子『穴』は、日常に入り混じる些細な不可思議を描いた作品です。

いわゆるマジック・リアリズム的(?)、方向(?)でしょうか。芥川賞受賞作でいうと多和田葉子『犬婿入り』川上弘美『蛇を踏む』と似たテイストです。(リンクをクリックいただければ感想のページに移動します

夫の転勤に伴い会社を辞めて、姑の持ち家に越してきた主婦 あさひ。冒頭から新居に移り住むあたりは、これでもかというぐらいに日々の生活感にあふれています。仕事から離れ、専業主婦として怠惰とも言えるゆるゆるな毎日を過ごすあさひ。そんなあさひに、ちょっとずつ違和感が生じ始めるのは、道端で一匹の黒い獣を見かけてから。後を追うように付いていくと、穴にすとんと落ちてしまいます。身動きが取れなくなった あさひを助け出したのは、お隣に住むという世羅の奥さんでした。

謎の黒い獣、世羅の奥さん、そして夫の兄と主張する子供らからセンセイと呼ばれる男の人・・・。この世にいるのか、いないのか判然としないまま、彼らとあさひの交流が描かれていきます。二十年近く物置に住んでいるという夫の兄(?)は、実にエキセントリック。良い味出しています。あさひと夫との会話は、現実であることは明白です。果して、それ以外は幻なのでしょうか。

うん、うん、良いですね。非日常のために破綻をきたすようでは文学としの面白味はありません。それは、ホラーとかミステリに任せておけば良いのです。本作品は、日常と非日常が緩やかなに融合しており、あさひと一緒に夢か現かの感覚を楽しむべきです。

雨の日でも庭に水を撒く、義祖父の突然の死。あさひの前に現れたのはひょっとして・・・。これは深堀しない方が、良さそうです。

収録されているのは、いたちの出没に悩まされる新婚家庭へ訪問したら「いたちなく」、子をなした「いたちなく」の夫婦のもとを再訪「ゆきの宿」です。そこはかとなく薄気味悪さが付きまとう連作です。