【本の感想】多和田葉子『犬婿入り』

多和田葉子『犬婿入り』

1993年 第108回 芥川賞受賞作。

多和田葉子『犬婿入り』は、ざっくり言うと変なお話しです。

家庭教師塾を営む 北村みつこが、教え子たちに繰り返し聞かせるのは、尻を舐める犬の寓話。ある日、彼女の前に突如現れた男 飯沼太郎 は、みつこ のお話しの通り尻を舐める癖を持っていました、という夢か現か幻かな作品なのです。

人ともつかぬ、犬ともつかぬ太郎と、一緒に暮らしっ始めた みつこ。太郎は、きっちりと家事と尻舐め(?)をこなします。愛情や性生活の生々しさが全く見えない、不思議な二人の関係が築かれていきます。

日常と非日常が混交するマジックリアリズムと捉えたら良いのでしょうか。 民間伝承の犬の婿入りは、軍功を上げた犬がお姫様を娶るというもので、本作品は、これに基づいた寓意ではないように思えます(というか、ピンとこない)。

物語は、太郎の妻の登場で、徐々に非日常が日常に侵食されていきます。結局、太郎とは犬に似た癖をもつ自由奔放な男?… … …と思っていたら、突拍子もない結末を迎えます。

自分は、ひたすら長ったらしい饒舌文体を読むと、何故か笑えてきます。本作品は、文学的に読み解くことはできるのでしょうが、そうすると、面白さが損なわれるような気がしてなりません。なので、自分にとっては、”ざっくり言うと変なお話し”が良い塩梅なのです。

文庫の『犬婿入り』は、もう一編「ペルソナ」が収録されています。本作品は、ドイツに暮らす姉弟の日々を描いていて、異邦人の孤独とかアイデンティティを強く意識させられる作品です。文学を好む読者は、「犬婿入り」よりこちらを評価するかもしれませんね。自分はと言うと、鬱勃としているだけの印象で、感銘を受けることはありませんでした。