【本の感想】ジョー・R・ランズデール『アイスマン』

ジョー・R・ランズデール『アイスマン』

母親に死なれ、食い詰めた青年ビルは、仲間と強盗をはたらきます。簡単なシゴトに思えたのですが、仲間の一人が殺人を犯してしまったことから、逃走する羽目に陥ります。ビルは、警察の追跡を振り切るべく、フリークショーの一団の中に潜り込むのでした・・・。 ジョー・R・ランズデール(Joe R Lansdale)『アイスマン』(Freezerburn)(1999年) は、こんな幕開けです。

著者の作品には、人種差別の悲しい真実が見え隠れしますが、本作品に登場する様々なフリークたちの姿にも同様に、それを垣間見ることになります。著者は、いつものように、偏見に晒される人々を描くだけで、怒りや憤りを直接的に表現してはいません。むしろ、著者の描写は、差別者の視点のようにどぎついのです。これが、より一層、息苦しさを伴ったやるせなさを誘います。

当初、フリークたちを見下していたビルでしたが、徐々に彼らと打ち解けていきます。残念ながら、この気持ちの変化する過程は、上手く表現されてはいませんね。悪態を吐きまくっていたビルが、フリークたちと心を通わせるに至るまで、唐突に見えてしまうのです。

フリークショーの呼び物である、氷漬けの男=アイスマンが、物語全体の象徴的な役割を果たしているのは分かります。しかしながら、決着の付け方は、伏線が足りないだけに薄っぺらな印象を残してしまいました。結局、本作品は、青春小説?、ビルドゥングスロマン?...。少なくとも、 ホラーではありませんね(人の心の醜さは、ホラーと言えるかもしれませんが)。

ビルの親友で、メンターとなるフリークショーの一員 ドックマン(犬のような人間) コンラッドはいい味を出しています。それがゆえに残念です(というか、もったいない)。

著者の作品は、ハップ&レナード シリーズも、モンスター・ドライヴイン シリーズも、すっかり翻訳されなくなってしまいました。2009年発売の傑作短編集『現代短篇の名手たち4 ババ・ホ・テップ』からぶっつりです。マニアなファンはいるのになぁ・・・。少なくとも、ここに1名。

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