【本の感想】ジョー・R・ランズデール『ロスト・エコー』

ジョー・R・ランズデール『ロスト・エコー』

ブルース・ウィリス、ハーレイ・ジョエル・オスメント 出演 映画『シックス・センス』(1999年)がヒットしてから暫くは、死者の声を聞く系の物語が量産されたように記憶しています。

ジョー・R・ランズデール(Joe R Lansdale) 『ロスト・エコー』(Lost Echoes)(2007年)も、あらすじを読む限りにおいて、この路線かと予想していました。しかし、本作品は、心霊現象を扱ったホラーではなくて、ランズデールがお得意の『ボトムズ』『ダークライン』系ビルドゥングスロマンなのです。

ハリー・ウィルクスは、子供の頃の高熱のせいで、不思議な能力を身につけています。物体が立てる音に、過去にその場所で起きた暴力と、それに伴う恐怖の情景を見出してしまうのです。幼い頃からこの能力に苦しめられていたハリーは、長じてからも、知らない土地を恐れ、人との関わりを敬遠していました。大学生になった今は、酒浸りの日々です。

さして事件も起こらないまま、内向的なハリーのウジウジ状態を読まされてしまいます。このあたりは、かなり退屈。ただし、所々で挿入される見知らぬ殺人犯の独白が、以降の展開を期待させてくれます。

ある夜、ハリーが飲んだくれの武道家タッドを介抱したことから、二人は友情を感じるようになります。そして、ハリーは、富豪の娘タリアと付き合うため、酒を断ち心身を鍛えようと、タッドと共に修行を開始するのでした。

タッドもまた、妻子を事故で亡くしてから破滅的な生活を送っていました。挫折を繰り返しながら、再生を試みる二人。しかし、ハリーは、タリアに遊ばれていることに気付いてしまいます。ここまでは、まだ、まだ、普通の青春小説。サイコメトリックは、刺身のツマですね。やがて、タリアの家の避難用地下室で、ハリーが幻視した殺人事件の情景が、前半の殺人犯の独白とリンクしていくのです。ワクワク。

ある日、失意の日々を過ごすハリーの元に、幼馴染の警察官ケイラが訪ねてきました。ケイラは、父が自殺した現場を幻視して欲しいと言います。父の死に他殺の疑いを抱いていたのです。ハリーは、幼い頃から好意を抱いていたケイラの頼みに、遂に自ら能力を能動的に使う決心をします。そして、ハリーが、そこで見たものは何か・・・と、続きます。

ここからは、怒涛の展開です。ハリー、ケイラ、タッドは、連続殺人の巨悪に挑んでいくことになります。

犯人は早々と分かってしまうので、にっちもさっちもいかない状況下での、三人の頑張りが見所でしょう。クライマックスは、さすがランズデール。ドキドキハラハラで一気読みです。前半のモタモタ感を、痛快に吹っ飛ばす勢いがあります。

しかしながら、サイコメトリックものとして読んでしまうと、物足りなさを感じてしまうでしょう。本作品はあくまでもハリー、ケイラ、タッドの自己再生の物語なのです。(自分は、ランズデールファンなので甘口です)

そういえば、ランズデールの長編が長らく翻訳されていないなぁ。そろそろ、ハップ&レナードのシリーズを出して欲しいよ。

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