【本の感想】連城三紀彦『暗色コメディ』

連城三紀彦『暗色コメディ』

連城三紀彦『暗色コメディ』(1979年)は、だまし絵のようなミステリです。

本作品を読み進めると、次々に怪異な出来事が提示されます。夫と逢引をする自分自身を目撃した主婦、トラックへの投身自殺を試みるもトラックそのものが消失し生還してしまった画家、妻に幽霊と思われている葬儀屋、妻が別人にすり替わっていることに気付いた外科医・・・

本作品は、不可思議な体験をした彼らが主役の群像劇です。登場人物それぞれが惑乱した心情を吐露する度に、足元を揺るがすような何とも幻想的な雰囲気に飲み込まれてしまいます。これは、怪談話?それとも、異常心理もの?語られれば語られるほどに、現実から大きく離れていく感覚を覚えます。

登場人物たちは、ある精神科で接点を持っています。ここから、複雑に絡み合った人間模様が、明らかになっていくのです。精神科で起きた失踪事件、紐解かれていく登場人物たちの暗い過去、そして、いくつかの殺人事件。誰がこの謎への解答をもたらしてくれるのか不明ですから、読者は、迷路の中を彷徨ってしまうでしょう。

本作品は、初っ端から感じたように、狂気で固唾けられてしまう危うさを孕んでいます。心理的なトリックへ、余計な解釈をせず、すんなり入っていけないと楽しめないかもしれません。特に葬儀屋の顛末は、はなはだ顛末が曖昧のように思います。本作品の読み方としては、著者の語り口の巧みさに酔いしれ、だまし絵の世界で遊ぶのが正解なのでしょう。

幾人かの登場人物が繰り広げるミステリ風群像劇は、一つに収斂したときの快感が魅力ですが、本作品はどこかぼんやりしています。ここは、ちょっと残念です。予想外の犯人ではあるのですが、それさえも覚束ないように思えてしまいます。心理的なトリックへ傾注し過ぎているからかもしれないですね。

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