【本の感想】ドナルド・E・ウェストレイク『忙しい死体』

ドナルド・E・ウェストレイク『忙しい死体』

ドナルド・E・ウェストレイク(Donald E Westlake『忙しい死体』(The Busy Body)(1966年)は、『ホット・ロック』(1970年)から始まる、不運な天才犯罪プランナー ドートマンダー シリーズ(傑作!)に先立つ作品です。

著者お得意のドタバタもので、いわゆるスラップスティック・コメディ(本作品の解説では、スラップスティック・クライム・ノヴェルとなっているけれど)なのです。

マフィアのエンジェルは、ボスのニック・ロヴィートから、埋葬されたヤクの運び屋チャーリーの墓を掘り返すように指示を受けます。チャーリーの墓に隠された、25万ドル相当のヘロインを回収するのが目的です。苦心惨憺、エンジェルが、やっとのことで、墓をあばいてみたところ、何と棺の中は空っぽでした・・・

そこから、エンジェルの、チャーリーの死体を巡っての右往左往が始まります。いつの間にやら、エンジェルは、警察やマフィアから追われるはめに陥り、ドタバタは、更にエスカレートしていきます。

ウェストレイクの作品には、どんなにピンチが訪れても、どこか泰然自若としていて、何とか乗り切ってしまう主人公が多いように思います。だから、自分は、ウェストレイクの作品が好みなのです。読んでいて、元気がもらえますからね。本作品のエンジェルも、そのうちの一人です。苦境に立たされても悲壮感がないだけに、ゆる~いコミカルさが、全編を通して漂っています。

本作品は、大笑いとはいきませんが、クスっとはさせてくれるでしょう。ちょっとしたことを、後からさりげなく持ち出して笑いを取る、ウェストレイクらしい小技が効いています。特に、墓を掘っている時のエンジェルと助っ人ウィリーの、全く噛み合わない会話が秀逸です。以降の、ウェストレイクの作品にも、このパターンはよく使われていますね。個性的な登場人物たちも、物語を大いに盛り上げるので、飽きさせることなく一気に読了することができるでしょう。

翻訳者の苦心の結果なのでしょうが、半世紀以上も前の作品ですが、読んでいて古さを感じさせることはありません。この作品が気に入るのならば、ドートマンダー シリーズも気に入ると思うし、ドートマンダー シリーズが好きなら、この作品はおススメできます。

なお、本作品は、『間抜けなマフィア』(なんとマヌケな邦題)として映画化されている。

1967年 公開 ロバート・ライアン、アン・バクスター 出演 『間抜けなマフィア』は、こちら。

1967年 公開 ロバート・ライアン、アン・バクスター 出演 『間抜けなマフィア』
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