【本の感想】ドナルド・E・ウェストレイク『聖なる怪物』

ドナルド・E・ウェストレイク『聖なる怪物』

週刊文春ミステリーベスト10にランクインしたドナルド・Eウェストレイク『斧』『鉤』に続き、翻訳出版されたのが、『聖なる怪物』(Sacred Monster)(1989年)。

前二作を読んだ自分としては、期待が大きくなるばかりでしたが、結論から言うと、本作品はイマイチです。解説によると、前二作と同系列のダークサスペンスを、過去に遡って掘り起こしたものだそです。三匹目のドジョウとは、なりませんでした。

ウェストレイクのヒネた笑いは健在ですが、短編を無理矢理に引き伸ばしたかのような冗長さがあるのです。ワンアイディアを長編に仕上げるウェストレイクの技は堪能できます。しかしながら、途中で結末が予想できてしまうため、読了時に作品が長々が続いた分、徒労感を味わってしまいました。

物語は、老優ジャック・パインと、彼のインタビューワーとの対話によって形成されています。

インタビューによって、ジャックの過去がフラッシュバックされ、如何にして偉大な俳優となったかが語られていきます。大物女優や、有力劇作家(男)に身を委ね、干されても立ち上がって名優としての地位を確立していくジャック。ジャックは典型的な映画産業のセレブリティとして描かれていますが、これがステレオタイプ過ぎてゲンナリです。この手の話しは、今や海外ドラマは、映画でお馴染みなのですから。

インタビューの途中で、得体の知れない発作が起きては、記憶がぶっとぶジャックの壊れっぷりは面白くはあります。まるでゼンマイ仕掛けのおもちゃのようです。醜態をさらしながらも、なお意気軒昂なジャック。

ジャックに影のようにつきまとうのは、親友のバディー・パルです。バディーはジャックの金を使い、ジャックの女房を誑しこんでいます。酷い仕打ちを受けながら、ジャックはバディーと離れることができません。ここが、本作品の核心となる部分で、”なぜ”が分かると、このインタビューそのものの仕掛けが明伯になります。

老齢に近づいたジャックは、放埒な生活を続けたせいで、俳優活動に支障が出てくるようになって ・・・ と続きます。

結末は、やっぱりそうだよね と納得するのですが、ページ数のわりに面白味がありません。先に述べたとおり中編ぐらいの分量で、キレを良くしたほうがいいのではないでしょうか。

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