【本の感想】三田誠広『いちご同盟』

三田誠広『いちご同盟』

その昔、子供の読書感想文のために選んだのが、三田誠広『いちご同盟』。少年少女向けと思って、侮っていたら、とんでもない勘違いでした。

中学三年生の良一は、ある日、野球部のエース徹也から試合のビデオ撮影を頼まれます。入院中の幼馴染に見せようというのです。

徹也に同行した良一は、そこで初めて同い年の直美を知ることになります。屈託のない直美に、面食らってしまう良一。しかし、直美は、重い病で余命いくばくもないのでした。生きていくことに希望を見出せない良一は、直美との触れあいから、命の意味を見つめ直していきます ・・・

良一は、15歳という狭い世界の中で息苦しさを感じています。留守がちの父親は、優秀な一つ違いの弟に期待をかけているし、厳格な母親は良一の言うことに耳を貸そうとしません。良一は、幼い頃から練習を積んできたピアノの道に進みたいのですが、進路をはっきりと口に出すことができないでいます。

学校では目立つ存在でもないし、親しい友人もいません。良一は、小五の頃に同い年の子が飛び降り自殺した出来事を、折につけ思い出します。

むりをして生きていても
どうせみんな
死んでしまうんだ
ばかやろう

そして、今でもその場所に足が向いてしまうのです。

良一は取り立てて不幸な子というわけではありません。

甘えでしょうか。

しかし、ラヴェルを弾きながら涙する感受性の強い良一には、めいっぱいの辛い現実なのです。出口の見えない焦燥が、15年しか生きていない少年の心を荒ませていきます。

同級生で人気者の徹也は、そんな良一の閉塞感を、直情的な個性によって払拭し始めます。そして、直美は、良一に人を愛することを教えるのです。自殺を生きていく上での選択肢の一つする良一と、自殺を贅沢な考えと詰る直美。良一と直美の無言の会話は、彼らの苦悩とすれ違いと和解を、絶妙に表現した名シーンです。

直美の死を経験し、生きていく意義を悟ったとき、良一の奏でる旋律は美しい余韻を残していきます。

素直に愛と死と友情を感じて欲しい作品です。

本作品が原作の、1997年公開 大地泰仁、岡本綾 出演 映画『いちご同盟』はこちら。

1997年公開 大地泰仁、岡本綾 出演 映画『いちご同盟』