ヒトの異常な部分をとんがらせた奇矯な人物がしこたま登場し、乾いた笑いを誘います。環境破壊に対する著者の怒りが際立つ作品ですが、奇人変人を縦横無尽に暴れさせ、笑いの中に深刻さを包んでいるのがハイアセン流…
【本の感想】カール・ハイアセン『殺意のシーズン』
犯罪小説界のマーク・トウェインと評されるのをちょいちょい目にするカール・ハイアセン(Carl Hiaasen)。マーク・トウェインは読んだことがないし、ハイアセンの作品が犯罪小説とは思えないので、ピンとこなかったりします。
デビュー作『殺意のシーズン』(Tourist Season)(1986年)は、以降の作品と趣が違っていて、犯罪小説と言えなくもありません (ハイアセンは、本作品以前にウィリウム・D・モンタルバーノとの共作が何冊かあります)。
サウスフロリダで発生する観光客の連続殺人。犯人は<十二月の夜>と名乗るテロリスト集団です。私立探偵のブライアン・キーズは、マイアミ<サン>紙の元同僚 スキップ・ワイリーの失踪事件を探るうち、この事件に巻き込まれていくのでした・・・
ハイアセンの作品の殆どは、フロリダの環境保護の姿勢が色濃く出ています。本作品は、その姿勢がストレートに伝わってきます。<十二月の夜>が起こす数々の残虐な事件の動機は、ハイアセンの作品に通底するものなのです。自然を破壊する輩は、これほどの目に合わせますよ、っていう意思表明と受け取れなくもありません。
著者の他の作品に比較すると、死んじゃう人が多いのですが、シリアス路線というわけではありません。ただし、奇矯な人物が跋扈してシニカルな笑いを誘うというハイアセン”らしさ”は、控えめでしょう。業界の俗物たちのそれっぷりが盛り上げてはくれますが、<十二月の夜>の四人がもう少しトンガって欲しかったですね。
物語は、テロリスト集団の目的を察知したキーズと、<十二月の夜>の攻防へともつれ込み、そこそこのアクションシーンが見せ場として用意されています。キーズの元恋人でワイリーの現恋人ジェンナや、キーズが護衛することとなるミスコンのクイーン カーラ・リンとの関係も見所。なかでも主人公キーズのナイーブさが良いのです。
ほろ苦さを漂わせたラストを含め、ハイアセンのその後の活躍が予感できる読み応えのある作品です。
なお、本作品には、シリーズ・キャラクターとしてアル・ガルシア巡査部長が登場します。
(注)読了したのは扶桑社文庫の翻訳版『殺意のシーズン』で、書影は原著のものを載せています。
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