【本の感想】ウィリアム・リトル『サイキック・ツーリスト 霊能者・超能力者・占い師のみなさん、未来が見えるって本当ですか? 』

ウィリアム・リトル『サイキック・ツーリスト 霊能者・超能力者・占い師のみなさん、未来が見えるって本当ですか? 』

自分は占いが好きじゃありません。

信じないのではなくて、できるだけ遠ざけておきたい。良い運勢よりも、悪い運勢の方が気になってしまうのです。だから、おみくじは引かないし、モーニングショーの占いコーナが始まるとチャンネルを変えます。子供の名前を考える時には字画も調べませんでした。まぁ、自分は、小心ものなのでしょう。

『サイキック・ツーリスト 霊能者・超能力者・占い師のみなさん、未来が見えるって本当ですか? 』(The Psychic Tourist:A Voyage into the Curious World of Predicting the Future)の著者ウィリアム・リトル (William Little)の姉さんは、天球図の占いから娘と共に水難事故で死ぬ運命を信じています。できるだけ水辺に近づかないようにした結果、人生の楽しみを少なからず犠牲にしている姉さん。天球図は、著者がプレゼントしたものなので立つ瀬がありません。そこで著者は、霊能者や超能力者、占い師に未来を見ることができるのかをテーマに、真実を求める旅に出ます。

本書を著すこととなった動機はチト怪しいのですが、著者の熱意はホンモノです。有名な心霊現象研究所=SPR(『幽霊を捕まえようとした科学者たち』を参照されたし)に赴いたり、日本でもお馴染み霊能者シルヴィア・ブラウン、FBI超能力捜査官ジョー・マクモノーグル等の英米の有名サイキックから、果ては占い館の占星術師、ジプシーまでに突撃取材を敢行します。魔女の集いに参加したり、サイキック養成学校に入学したりと体当たりレポートが続きます。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

ウソ?ホント? 客観的であろうとするあまり、混乱の極みに立たされる著者。予期しない様々な未来を予言され、さらには自分自身ですら知らない寝耳に水の重大情報が明らかになります。著者はそのたびに えっ!、へ? と仰天してしまいます。魔女の集いでは皆が見える幽霊が見えず、サイキック養成学校では超能力がさっぱり使えないことで落ち込んだりするのです。

本書は、軽いタッチで笑いを誘うように書かれているのですが、随所に科学的な観点できっちりと論考を加えています。サブアトム、ジョーンディクスン効果、知覚漏洩、コールドリーディング、バーナム効果等に言及しながら、サイキックが存在しうるかを検証しながら話を進めるのです。サイキックに依存し、娘の死から脱却できない人にを取り上げている箇所では、著者のやるせない気持ちが伝わってきます。こういう悲劇は世の中によくあるのだろうなぁ。

サイキックだけの一方的な話ではなく、啓蒙主義者や懐疑論者の意見を反証として挙げているのが、本書が興味本位のレポートに終わっていないところです。著者は、物理学者や心理学者のインタビューで、量子物理学や脳科学まで踏み込んで真実を明らかにしようとします。

心理学者スチュアート・ヴァイスによると、超能力絡みのイベントの常連は、とりわけ強い信念を持つ人が多いとのこと。これは、面白い発見です。

本書には、あの『利己的な遺伝子』を著した進化生物学者リチャード・ドーキンスまで登場するし、未来予知の科学からタイムマシンの実現レベルの研究にまで触れています。トンデモ本かと思いきや、なかなか良質のノンフィクションです。タイトルと表紙から、ちょっと油断してしまったようです。

さてさて、著者の旅の終わりには、どういう答えが待っていたでしょうか。この答えに納得するか、共感するか、はたまた反発するかは、読者次第ですね。

自分はやっぱり、”未来は僕等の手の中”(by ブルーハーツ)と思いたいのです。

でも、厄年にお参りに行かず知らんぷりしていたら、ひどい目にはあったのですがね。