海洋冒険小説です。荒唐無稽であっても目をつぶってあげなければなりません。異なる人生を歩んできた人々が邂逅し、目的を一つにするというロマンチックな物語には多少のご都合主義はあっても良いのです。
【本の感想】A・J・クィネル『メッカを撃て』
A・J・クィネル(A. J. Quinnel)『メッカを撃て』(The Mahdi )(1981年)アメリカ、イギリス、ロシアが手を組んで、イスラム世界をペテンにかける驚天動地のエスピオナージです。
CIA作戦部長モートン・ホークは、マレーシアに隠棲している老スパイ プリチャードからイスラム世界を転覆するためのアイディアを授かります。それは、イスラム歴千四百年に出現するといわれる預言者=マハディをでっちあげ、十億人のイスラム信徒を思うがままに操ることでした。
ホークは、イギリスMI6へ、共同の作戦行動を持ちかけます。アメリカの権益を護るため、イギリスを露払いにしようというのです。MI6の作戦副部長ピーター・ジンメルは、アメリカの意図を察知しつつも、この奇想天外な作戦”ミラージュ計画”へ関与していくのでした ・・・
ミラージュ計画は、メッカ巡礼で集った300万人のイスラム教徒の目前で、奇跡を演出するというものです。生贄の羊を、スペースシャトルから照射したレーザで破壊し、神のみ業に見せかけるという作戦。マハディに選ばれたのは、砂漠の無知な修行僧アブ・カディル。CIAの息のかかったアラブ人ハジ・マスタンが、従者としてアブ・カディルを操縦します。アメリカ、イギリスそれぞれの利権が交錯する中、CIAチーム、MI6チームの共同作戦が、紆余曲折しながら進んでいきます。
この過程はわりと退屈です。本作品のホークと、ジンメルの人となりや、信頼関係がかたちづくられる様がじっくり描かれていきます。冗長と感じるのですが、これがあるからラストに感慨がうまれるから辛抱です。
CIA、MI6の作戦行動は、やがてKGB海外作戦本部長ワシーリイ・ゴルディックの察知するところとなります。ゴルディックは、ジンメルのロマンチストの性向を利用しようと、バレリーナ マヤ・カシューヴァをスパイとして送り込むのでした。 ・・・
このあたりから、CIA、MI6、KGB三つ巴になり、ストーリーは展開します。やがて、手違いからミラージュ計画は、アラブ人過激派の知るところとなり ・・・ とつづきクライマックスを迎えます。
はたして、ミラージュ計画は成功するのでしょうか。最後の最後におとずれる予想外の大ピンチ。ラストは、驚愕のどんでん返しが待っています。最終ページを読み終えたとき、このペテンの裏側にある秘密を理解し、本作品が大傑作であることを思い知るのです。
イスラム世界についてもお勉強になる一冊でした。
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