【本の感想】吉村萬壱『クチュクチュバーン』

吉村萬壱『クチュクチュバーン』

2001年 第92回 文學界新人賞受賞作。

吉村萬壱『クチュクチュバーン』は、著者のデビュー作で、ホラーテイストのSF作品集です。人が人でなくなる過程を描いた3作品「クチュクチュバーン」「国営巨大浴場の午後」「人間離れ」が収録されています。

どの作品も、一言でいうと”実に”おぞましい。

破壊的ともいえる残虐シーンのオンパレードなのですが、それより、狂気にかられ内面から人間性を失っていく人類の姿に怖気をふるってしまいます。子供の頃読んだ永井豪『デビルマン』の衝撃に似ているでしょうか。

不条理極まりない出来事を前に、生という本能しかなくなってしまう人類。酸っぱいものが込み上げてくるのは、著者の圧倒的な筆力ゆえですね。救いも笑いもないので、読了したときの気分はよくはありません。

・・・でもクセになりそう。

本作品集は、好き嫌いを超越したところにあるのです(自分だけか)。

■クチュクチュバーン
生物、無生物とわず合体し、異形のものと化していく人々。彼らが向かう先で、大きな集合体に取り込まれていきます。クチュクチュクチュ・・・クチュクチュ・・・クチュクチュ・・・そして、バーンとはじけとぶ ・・・

『デビルマン』のデーモン無差合体別攻撃を彷彿させる作品。背景は一切語られません。特異な終末観で描かれる死と再生の物語です。

■国営巨大浴場の午後
ナッパン星人とターハン星人の二つの異星人に蹂躙された人類。狂気が支配する世界は、いよいよ最後の時をむかえます ・・・

異星人による地球征服を描いた作品です。狂った世界で生き残った、精神を崩壊しつつある人々の、ひとときを描いています。死を目前にした時の諦念が鮮烈です。

■人間離れ
異星人により人類は尽く殲滅されつつあった。生き残る方法は、仲間を虐殺するか、直腸を対外にぶら下げるか ・・・

本作品もまた、異星人による地球征服を描いた作品です。生のために、”直腸出し”をし、同士討ちを繰り広げる人々。グロテスクで陰惨な世界観は、本短編集の中で一番です。人類が人間離れした姿には、戦慄すらおぼえてしまいます。”直腸出し”・・・発想が凄い!(けど、気色悪い)。

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