【本の感想】吉村萬壱『ハリガネムシ』

吉村萬壱『ハリガネムシ』

2003年 第129回 芥川賞受賞作。

子供の頃、随分残酷な遊びをしました。

蜘蛛の巣に採ってきた蝶を絡ませたり、トンボの尻にクローバを突っ込んで飛ばしたり、蟻を集めて虫眼鏡で焼いたりと・・・。子供ながら自分でやっている事に嫌悪感を抱き、ざわめきながらもこの悪行が止められません。酷いことをしているという後ろめたさが、余計、征服欲に拍車をかけたのだろうと思います。

吉村萬壱『ハリガネムシ』は、厭な小説です。

読み進めながら、子供の頃の鬱屈した気分を思い出しました。あの時の行為が、自分の本能によっているのならば、今だに酷い事を求める何かかがあるのかもしれません。

本作品は、端的に言うと欲望をさらけ出した男の物語です。

一度会ったきりのソープ嬢サチコと同棲を始めた高校教師 慎一。慎一は、サチコの容姿に、行為に、言動に、嫌悪感を抱きながら、関係を続けています。仕事場では、密かに欲情をもよおしている同僚の女教師に叱責され、鬱勃とした日々を送る慎一。サチコに対しては、時には心をどこかに置いてきたような優しさを見せ、時には暴力をもって冷酷に突き放します。

獣のよう性行為は、もっともっとと、堕ちていく自分を、サチコを通し確認しているように思えます。慎一は、サチコが行方知れずになると、一抹の寂しさに襲われます。しかしながら、この寂しさは愛と呼べるものではないでしょう。自身の所有する物に対する執着に似ています。

カマキリの尻から悶え出てくるハリガネムシは、剥き出しになった欲望を象徴しているようです。厭な気分にさせるのは、理性で押さえつけている暗い部分に、不本意ながら共鳴してしまうからなのかもしれません。

読み進めながら、残酷なまでに人間の本質を抉り出す著者の筆力に感嘆してしまいます。読み切るのに嫌悪に耐えうる精神力を要しますが、著者の他の作品を手に取ってみたいと思わせます。

ちなみに、今の自分は虫の類が大の苦手です。触るのはおろか、近寄る事もできません。だからと言って、本質の部分で変わっているわけではないのでしょうけど。

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