【本の感想】吉村萬壱『バースト・ゾーン ― 爆裂地区』

吉村萬壱『バースト・ゾーン』

吉村萬壱は、(悪い意味ではなく)厭な小説を書きます。誰もが持っている根源的ないやらしさを、ど直球で突き付けてくるのです。芥川賞を受賞した『ハリガネムシ』は、人のむき出しの欲望が、うねうねと体から這い出してくるような不快な気分にさせられました。

『バースト・ゾーン ― 爆裂地区』は、SFではありながらも、著者らしく厭な気分にさせるテイストが色濃く出た作品です。人体破壊のグロテスクさは、短編集『クチュクチバーン』の路線ということになるでしょうか。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

”この国”では、「テロリン」による相次ぐテロ活動の結果、奇病の蔓延と深刻な食糧難によって、人々の生活は破綻にしつつあります。そのため、人々は、「テロリン」を殲滅せんと、沸き立つような狂気で戦意を高揚させていました。いち労働者である椹木は、妻と娘を爆発テロで失なったことを契機に、戦闘員として戦地に赴くとこを決意します ・・・

物語は、椹木、椹木の愛人 寛子、医師 斉藤、麻薬の密売人 土門、素人画家 井筒ら、登場人物が絡み合いながら群像劇のように展開していきます。

椹木を含め本作品の登場人物は、品性下劣ともいうべき者たちです。己の欲望のままに行動し、他者を蹂躙しても生き残っていこうとします。心身の弱きものは、彼らの犠牲になるしかありません。

最前線で戦闘員たちが見たものは、究極兵器「神充」です。「神充」をめぐり戦闘員たちは阿鼻叫喚の殺戮戦を繰り広げていきます。「神充」とは、そして「テロリン」とは・・・ 。生き残った戦闘員たちは、やがて絶望的な真実に辿りつくのでした。

大枠のストーリーは、予想を大きく外れることはありません。その点では、衝撃的な展開を期待すると肩透かしをくうことになります。見るべきは、登場人物たちの人間模様なのでしょう。クライマックスにかけて、ばらばらであった登場人物たちの物語が一つに収斂していき、大いに盛り上げてくれます。

本作品は、何といっても異形の生物兵器「神充」が秀逸です。世界の終わりを予感させるに足る絶対的な破壊力。「神充」とは言いえて妙ですね。あの大傑作の漫画を彷彿させるような誕生シーンは、読み応えたっぷりです。

吉村萬壱作品、これからも読んでいかねばなりますまい。

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