【本の感想】フランシス・アイルズ『レディに捧げる殺人物語』

リナ・アスガースは、八年近くも夫と暮らしてから、やっと自分が殺人者と結婚したことをさとった。

本の感想 フランシス・アイルズ『レディに捧げる殺人物語』

フランシス・アイルズ(Francis Iles) 『レディに捧げる殺人物語』(Before the Fact : A Murder Story for Ladies )はこの一文で幕を開けます。

リナは、ハンサムな青年ジョニーからの積極的なアプローチの末、結婚しました。幸福を感じていたリナでしたが、徐々にジョニーの浪費癖や虚言に振り回されていきます。ギャンブルの借金や女性関係が明らかになるにつれ失望をつのらせるリナ。しかし、リナはジョニーが更生することを信じ、ジョニーへ手を差しのべ続けるのでした ・・・

騙されても、ひどい扱いをされても、ジョニーを見捨てることなできないリナ。リナは、愛想を尽かす寸前で立ち止り、ジョニーへの愛をかきたてていきます。依存症ともいうべき心理状態です。

リナは、先天的なダメ人間ジョニーの行動に一喜一憂し、ジョニーの良い面を見つめ続けようとします。ジョニーのひんまがった性格より、リナのねちっこい心の動きが不気味です。イライラすら感じるでしょう。やがてリナは、ジョニーを拒絶するために、別の男性に心を寄せることを試みるのですが、このあたりの描き方は興味深いですね。

ジョニーが金のために殺人を犯した過去を持つことを知ったリナ。しかし、その時には、ジョニーにがんじがらめに心を縛られていたのです。

本作品は、犯人探しをするたぐいの推理小説ではありません。先に待ち受ける運命へ抗うことができなくなったリナと、リナが察知していることを知りながら終焉に向わざるをえないジョニーの捻じれた愛情を描いています。犯罪心理小説であり、恋愛小説でもあるのです。

名香智子画『レディに捧げる殺人物語』

本作品が原作の、名香智子画『レディに捧げる殺人物語』はこちら。

アルフレッド・ヒッチコック監督  ジョーン・フォンテイン 、ケーリー・グラント出演『断崖』

本作品が原作の、1941年公開 アルフレッド・ヒッチコック監督 ジョーン・フォンテイン 、ケーリー・グラント出演『断崖』はこちら。

ちなみに、本作品は三笠書房から『リナの肖像』として翻訳出版れています。所有しているけれど、内容が同じと知って読んでいませんでした。