【本の感想】フランシス・アイルズ『殺意』

フランシス・アイルズ『殺意』(原著)

倒叙ミステリは、まず犯人、および犯行ありきで、主として犯罪者の視点で物語が展開するものです。ドラマでは、刑事コロンボ シリーズや古畑任三郎シリーズでお馴染みの形式(今や昔の作品か・・・)。

小説では、F・W・クロフツが『クロイドン発12時30分』、リチャード・ハル『伯母殺人事件』、フランシス・アイルズ『殺意』が三大倒叙ミステリといわれているようです。

フランシス・アイルズ(Francis Iles)『殺意』(Malice Aforethought) (1931年)はざっくり言うと、妻を、他の女のために殺害した男の物語です 。

イギリスの田舎町の開業医 ビクリー博士は、妻のジュリアを疎んじていました。ビクリーの自宅でパーティーが開かれたある日のこと。訪れたギニフリッドに一目惚れしたビクリーは、ジュリアへの嫌悪をさらに募らせ、ついには殺意を抱くようになります。ギニフリッドを我がものにせんと、ビクリーは綿密な計画をたて、ジュリアの殺害を実行に移すのですが・・・

本作品は、主人公ビクリーが殺人に魅入られていくところから始まり、犯罪の進行、そしてその顛末までが描かれています。犯人やその動機が冒頭から提示されているので、読者は犯罪が暴露されるまでの経緯を追いかけます。倒叙ミステリならではで、犯人の心の動きにじっくりとお付き合いすることになるのです。

風体がパっとせず、妻に頭の上がらないビクリー。それでも彼は、その町の名士として、数々の女性との浮名を流しています。愛人がいながらもギニフリッドにアプローチをし、あげく翻弄されてしまうビクリー。物語が進むにつれ、ビクリー、ギニフリッド、ジュリアらの歪んだ心の内が明らかになります。

漸く、妻を亡きものにしたビグリー。ところが、キニフリッドは、恋愛ゲームを楽しむ天性の毒婦だったのです。本作品の出版年は1931年ですが、現代でもよく見られる展開ですので、心理描写には古びた印象はないでしょう。

警察による執拗な捜査に恐慌をきたしながらも、ビクリーは度重なる逆境を撥ね除け、からくも逃げ道を探し出していきます。この時の、ビクリーの悲観と楽観が交互に押し寄せる表現が秀逸で、クライマックスを大いに盛り上げてくれます。

そして、じれったくも待ちに待ったラストは、お決まりのはずなのですが・・・ そうきたか!と感嘆してしまいました。

田舎町という、独特の閉鎖的な空間で繰り広げられる犯罪行為に端を発し、ゴシップネタに嬉々とする住民たち。誰もが他の誰かを監視しているような息苦しさを感じます。ビクリーを含め登場人物たちが皆、居心地の悪くなるようないやらしさを秘めているのです。ここも、本作品の一つの見所でしょう。

(注)読了したのは創元推理文庫の翻訳版『殺意』で、 書影は原著のものを載せています 。

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