【本の感想】船戸与一『神話の果て』

船戸与一『神話の果て』

1985年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第7位 。

船戸与一『神話の果て』は、 南米三部作 (『山猫の夏』『神話の果て』『伝説なき地』の三作品を指します) の第二弾です。第一弾の『山猫の夏』と、日本人が主役の冒険小説であることは共通ですが、ストーリー上のつながりはありません(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)。

舞台は、政情不安定なペルー。天然ウラン鉱床を発見したアングロ・アメリカン鉱業は、一帯を支配するゲリラ組織カル・リアクタを壊滅させるため、指導者ラポーラの密殺を計画しています。

アングロ・アメリカン鉱業から依頼を受けた破壊工作員の日本人 志度正平は、日系の革命家になりすまし、カル・リアクタに潜入を試みます。志度の前に立ち塞がるのは、利権をめぐってゲリラ組織の壊滅を阻止したいCIAエージェント ジョージ・ウェップナー、そして、ただ命を奪うためだけに志度をつけ狙うカンボディア人の暗殺者ポル・ソンファン。アンデスの高地で、登場人物たちの血みどろの戦いが幕を開けます。果たして、志度の運命は・・・ という展開です。

冒頭の、酒浸りの”弛緩”した生活を続ける志度が、仕事のために身体を作ってっいくというプロセスは、自分のお好みの設定です。世話になった娼婦に大金を残し、背中で別れを告げ、無言で去っていく。このクサさが堪りません。

官憲の目をくぐり抜け、他の工作員を排除しながらのゲリアへの潜入行は、まさに艱難辛苦といったところです。次々に巻き起こる障害を、プロフェッショナルな冷徹さで切り抜けていきます。志度の、元文化人類学者にして殺戮衝動に目覚めた男、というキャラクターに没入するのは、なかなか難しくはあるのですが。

キーパーソンと思われる人物が、あっさりと命を落としてしまうのは船戸与一流です。主役といえども安穏としていられません。緊迫感は、途切れることなく持続します。「ゴルゴ13」の原作者(外浦吾朗 名義)でもある著者ならではで、銃撃シーンの描写には力が入っています。本作品は、『山猫の夏』と同様、懐かしの西部劇を彷彿させる冒険小説です。ペルーが自分にとっては未知の世界であっても、スケールの大きさとリアルを感じさせます。

全編の血生臭さや決着の付け方からすると、本作品は、男性読者向け小説なんだろうなぁ。

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