【本の感想】奥田英朗『ガール』

奥田英朗『ガール』

新入社員の頃、隣の席の三十代 先輩女性社員はおそれおおかったなぁ。

自分のトレーナーゆえに、挨拶の仕方から、電話の取り方まで、まさにご指導ご鞭撻の日々を送っていた上に、仕事上での実力差も圧倒的で、全く頭が上がりませんでした。

(お客様の電話応対で、「○○は欠席しております」と言ったところ、「そこの学生気分!」と苦笑いしておりましたねっ!)

先輩男性社員のように、飲み会で気安く接することもできませんでした。煙たいとは言わないまでも、微妙な緊張感が漂っていたのは確かです。

奥田英朗『ガール』は、30代キャリアウーマン(死語?)が主役の短編集です。

いずれの作品も、大企業に勤め、仕事的に認められ始めている女性たちの、ちょっとしたつまずきが描かれています。女性目線からの語り口なのですが、男の自分にももどかしさや悔しさが共感できてしまいます。女性がどのように捉えるかは別として、そのあたりは著者の巧さなのでしょう。

読後感はあっけらかんとした清々しさに溢れているので、明日への活力源にぴったりの作品集です。

「ヒロくん」は部下の男性との確執に苦悩する女性が、「マンション」はマンションの購入を巡って人生の岐路を感じる女性が、「ガール」は周囲から”女の子”と見られなくなってしまった女性が、「ワーキング・マザー」は仕事上のライバルと丁々発止を繰り広げるシングル・マザーが、「ひと回り」はイケメン新入社員のトレーナーとなった女性が登場します。

どの作品もよくあるお話しではあるものの、頑張っている女性はステキだと改めて認識した次第です。

「ひと回り」は、自分のトレーナーのことを思い起こしました(もっとも、自分はイケメンではなく、先輩は自分に恋心を抱くはずはないのですが)。「ワーキング・マザー」は、勤め人としてぐっとくるものがありますね。

さて、この歳になると30代の女性は、娘も同然です。恐れおののいていた若かりし日々が、とっても懐かしかったりします。

先輩、今頃、どうしているでしょう。自分も「そこの学生気分!」と(とっくの昔に)言えるようになりましたよ。

本作品が原作の、早坂いあん 画 マンガ『ガール』はこちら。

早坂いあん 画 マンガ『ガール』

本作品が原作の、2012年公開 香里奈、麻生久美子、吉瀬美智子 出演 映画『GIRL(ガール)』はこちら。

2012年公開 香里奈、麻生久美子、吉瀬美智子 出演 映画『GIRL(ガール)』
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