【本の感想】奥田英朗『マドンナ』

奥田英朗『マドンナ』

奥田英朗『マドンナ』は、勤め人として一番大変な時期の、おっさんらが主役の短編集です。

不惑の歳であるはずが、迷いに迷っている男たち。本作品を読んでいると、四十にして惑わずなんて、今や昔なんだと痛感してしまいます。

大企業に勤めるキャリア・ウーマンを快活に描いた著者の『ガール』に比較すると、本作品の男性陣は、何と、哀れなことでしょうか (リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)。 いじらしくもあり、情けなくもありと、同じ年代の男性は、まるで鏡を見ているような錯覚に陥るはずです。

とはいえ、読んでいて厭な気分にはならず、「あるある、分かるよその気持ち」と、首肯することしきり。残念ながら、同病相憐れむに近いのかもしれません。

登場人物の面々は、大企業の良いポジションを得ているように想像されます。それでも、男とは悩み多き生き物なのですよ。

「マドンナ」は、配属された部下に恋心を抱いてしまった男性を、「ダンス」は、出世に意欲を持ちながらそれとは違う生き方への迷いを感じる男性を、「女房は総務」は、着任先に溶け込めないエリート街道まっしぐらの男性を描いています。

自分のお気に入りは、「ボス」「パティオ」の二作品です。

新任の優秀な女性上司に反発する男性の姿が痛々しい「ボス」。女性、男性、それぞれの価値観のぶつかり合いが、如実に表れています。どうしても同性のよしみで男性の方を応援してしまい、滅多打ちにあう男性の姿にイライラが募ります。ラストは、ほっこりで救われました。世の中、国の政策もあってか、企業において女性管理職が多く輩出されつつあります。能力的には女性の方が優秀ですから、今後はあちこちで普通に見られる光景なのでしょう。

「パティオ」は、他の作品とちょっと趣が違っていて、仕事を通して人との出会い、そして面映ゆい親子の関係へと広がりを見せます。男親と息子の不器用な愛情が、自分自身を見ているようで胸がアツくなりました。この短編集では、ベストの作品です。

迷いの中にいるうちは、少なからず若さを感じられるように思います。それだけ選択枝があるのですから。自分? 選択枝・・・そんなにないなぁ・・・

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