【本の感想】船戸与一『山猫の夏』

船戸与一『山猫の夏』

1984年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第4位。 
1985年 第6回 吉川英治文学新人賞受賞作。
1985年 第3回 日本冒険小説協会大賞受賞作。

ビーステルフェルト家とアンドラーデ家が、百年の及ぶ抗争を続けるブラジルの町エルクウ。ビーステルフェルト家は、山猫こと弓削一徳に、アンドラーデ家の息子と駆け落ちした長女を連れ戻すよう依頼します。山猫は、捜索隊を編成し、二人の追跡を開始しますが、一方で、アンドラーデ家も傭兵達を差し向けるのでした ・・・ 

船戸与一『山猫の夏』は、灼熱のブラジルの中で展開される流血の冒険小説です。冒頭の、ブラジル版ロミオとジュリエットの逃避行はほんのさわりでしかありません。中盤から町全体をぶっ壊すほどのスケールの大きな物語へと広がりを見せます。

本作品は、舞台が外国でありながら、主役を日本人としているのですが、全く違和感はありません。むしろ、日本的な価値観が垣間見えるのが、本作品の魅力と言えるでしょう。

昔のウェスタン映画で見られるベタなシーンが散見されますが、そこはご愛敬でしょう。登場人物たちは、敵役、脇役を含めて皆、個性的です。まるで映像を見ているかのように、彼らの一挙手一投足を思い描くことがでます(どんどん、やられちゃうんだけど)。特に山猫のキャラクターは秀逸です。嫌味な程の” 俺TUEEE”的な発言と行動は、ここまで徹底されると、心地良ささえ感じてしまいます。強さへの絶対的な安心感とでも言いましょうか。その分、ラストの衝撃は、とてもでかいのです。 

船戸与一作品は、ここから入るのが良いでしょう。 南米三部作(『山猫の夏』『神話の果て』『伝説なき地』の三作品を指します)の中では、本作品がオススメです(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)。

本作品が原作の、柳澤一明 画 漫画『山猫の夏』はこちら。

柳澤一明 画 漫画『山猫の夏』
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