【本の感想】船戸与一『猛き箱舟』

船戸与一『猛き箱舟』

1987年 週間文春ミステリーベスト10 国内部門 第1位。
1987年 第6回 日本冒険小説協会大賞受賞作。

一級品の男になるため、香坂正次は、灰色熊の異名を持つ隠岐浩蔵を訪ねます。隠岐は、海外の組織犯罪から日本企業を守るべく非合法活動を行う傭兵たちのリーダでした。香坂の活動への参加を渋る隠岐。しかし、香坂は、執拗なアプローチが功を奏し、マグレブでのミッションに参加することを許されます。そのミッションとは、マグレブの利権渦巻くグ・エンザ鉱山を確保し、国益を守ること。香坂と、隠岐の要請に応じて参集した傭兵たちは、西サハラで作戦行動を開始します。やがて、砂塵の中からポリサリオ解放戦線の武装戦闘集団が姿を現して ・・・

船戸与一の冒険小説は、スケールがでかすぎて日本には収まりきりません。『猛き箱舟』も、ほぼ北西アフリカ諸国が舞台となっています。(当時の)モロッコ、アルジェリアの情勢や、ポリサリオ解放戦線の活動を背景に取り入れている点に、興味が惹かれます。それぞれの思惑が錯綜する中、熱砂で繰り広げられる緊迫した戦闘は、映画を観ているように臨場感がたっぷりです。

登場人物たちのクセの強さも、著者の持ち味が良く出ています。「こんなヤツいない」というぐらいに、強烈な個性の持ち主がどんどん登場するのです。彼らがどのように絡み合っていくのかが一つの見所です。ただ、主人公の香坂は、『山猫の夏』の山猫のような神秘的なカリスマ性を持ち合わせていないので、比較すると魅力に欠けていると言わざるを得ません。全然、ワイルドじゃないし!。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

本作品は、著者の他の作品よりも、主要人物のほぼ全員が命を落とすという「死にすぎ感」たっぷりです。命の消える瞬間の描写は、秀逸ではあるのですが、それにしても・・・

ストーリーは、作戦行動で隠岐に囮として見捨てられた、香坂の復讐劇へと展開します。ポリサリオ解放戦線の収容所の脱出行から、仲間だった傭兵たちに命を狙われていく香坂。ピンチ、またピンチの連続。先が見通せない香坂の未熟さが、読者に苛立たしさを募らせるでしょう。しかしながら、香坂は、隠岐の執念深い裏切りと、ポリサリオ解放戦線の女性兵士との悲恋を経て、幽鬼の如き存在へ変貌します。そして舞台は日本へ・・・ と続きます。

絶好調の盛り上がりですが、舞台が日本に移るとスケールが急に小さくなったように感じてしまいます。ラストの舞台に日本を選んだのは、西サハラが雄大だっただけに残念です。西サハラでは、

ルセロ呼ばれているんだ、おれは

と洒落た事をいう香坂ですが、東京では

おれかい?風の又三郎さ

になります。えー!

本作品が原作の、柳澤一明 画 漫画『猛き箱舟』はこちら。

柳澤一明 画 漫画『猛き箱舟』
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