【本の感想】重松清『流星ワゴン』

重松清『流星ワゴン』

本を読んで泣くことは、殆どありません。

ストレス発散には涙を流すのが効果的らしいので、泣けるといわれる本をたまに手に取るのですが、ほぼ期待ハズレに終わります。映画はイチコロなのに。やっぱり、自分の想像力が貧困なんでしょうね。

重松清『流星ワゴン』は、珍しく泣けました。大泣きです。

モスバーガーで、モーニングのチーズバーガーを食べながら、最終ページで嗚咽を漏らしました。周りのお客さんにとっては、朝っぱらから、不気味な人を演じたようです。すみません。

死んじゃってもいいかなあ、もう

主人公の永田一雄は、不幸のどん底です。妻の美代子から不倫のあげく離婚を切り出され、息子の広樹の家庭内暴力に悩まされています。おまけに一雄自身がリストラで退職を余儀なくされているのです。

ある夜、一雄のもとに一台のワゴンが停まり、ドライブに誘われます。運転手は橋本義明さん。そして助手席には健太くん。彼らは5年前の交通事故で亡くなった親子でした。

一雄は、ワゴンに乗せられ、過去を反芻する旅に出ます。未来は決して変えられないのが旅のルール。不幸な過去を繰り返す事にいたたまれない一雄。そこに、余命いくばくもない絶縁状態の父 忠雄が姿を現します。忠雄は、一雄と少しも変わらない歳格好でした ・・・

年と共に、夫婦の関係だったり、親子の関係だったり、しっくりいかない事も多くなってくるわけですが、打開策はなかなか見つかりません。一雄のように極端ではないけれど、不幸の萌芽はどこにでもあるような気がします。あの時のあの一言さえなければ、とかね。

一雄は、過去を繰り返す中で、別の選択肢を選ぶのだけれど、スッキリと改善されはしません。これまで気づかなかった多くのことが、一雄の前に明らかになっていくだけです。一雄自身には、決定的な落ち度が見当たらないのです。だから、余計辛くなります。自分は、読み進めなながら、苦い顔をしていたに違いありません。

本作品では、一雄と広樹、一雄と忠雄(チュウさん)、橋本親子、三つの親子関係にスポットが当たっています。最後まで、彼らの関係に明るい未来が開けません。でも、微かな兆しは、見出せるでしょう。

壊れた関係の再構築は、一朝一夕にはできません。目を背けたくなるような嫌な事に、正面から向き合わざるを得ない時もあります。本作品は、人生にとってとても大切な示唆を与えてくれます。だから、泣けてきたのでしょう。

泣きたいときは、重松作品が良いですね(そういえば、『ナイフ』も泣けたっけ)。 (リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

本作品が原作の、2015年 西島秀俊、香川照之 出演 TBS日曜劇場『流星ワゴン』も好調でしたね。こちらは、原作とはちょっと違っていて泣けはしませんでした。

2015年 西島秀俊、香川照之 出演 TBS日曜劇場『流星ワゴン』
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