ピタゴラスから、アンドリュー・ワイルズまで、数論とそれに情熱を傾けた数学者の歴史を紐解きつつ、フェルマーの最終定理が如何にして証明されたか、その足跡を著わすものです。数学嫌いにも感動を与えるサイモン・…
【本の感想】デボラ・ブラム『幽霊を捕まえようとした科学者たち』
ダーウィンが進化論を世に問うてから先鋭化した科学と宗教の対立。
デボラ・ブラム(Deborah Blum)『幽霊を捕まえようとした科学者たち』(Ghost Hunters: William James and the search for scientific proof of life after death )(2006年)は、科学が著しい進歩を遂げていく19世紀から20世紀初頭の英米を舞台に、自明のものを超越した存在を研究しようとする科学者たちの生き様を著わすものです。
登場人物は、オカルトに取り憑かれた奇矯な人々ではなく、当代一流の物理学者、心理学者、哲学者、数学者たち。その精神の真髄は、物理法則至上主義の科学が偏狭さに陥っている愚を反省し、超常現象を科学で解明する事で、科学と信仰の架け橋とならんとするところにあります。本書は、彼ら研究者の、科学に対する真摯な姿勢が強く印象に残るノン・フィクションです。
中心となるのは、ハーヴァード大学教授 ウィリアム・ジェイムズ(作家ヘンリー・ジェイムズの兄)、ケンブリッジ大学心霊現象研究協会(SPR)の創設者 ヘンリー・シジウィック、フレデリック・マイヤーズ、エドマンド・ガーニー。彼らを支持し活動を共にする、シャルル・リシェらノーベル賞を受賞した錚々たる科学者たち。教育機関としては、日本じゃちょっと考えられない懐の深さです。
研究者らの活動は、いたって地味です。長年に渡り心霊体験や霊媒師の調査と実験を繰り返し、詐欺やトリックを見破りながら、5%の真実を見つけ出そうとします。D・D・ヒューム、レオノーラ・バイパー、エウサビア・パラディーノといった著名な霊媒師の調査報告は、興味深いですね。疑いの眼差しが、驚愕に変わっていく様がつづられていきます。特に”白いカラス”(真実の意味)と認定されたレオノーラ・バイパーの不可思議な能力には、調査にあたったリチャード・ホジソンのように魅了されてしまうでしょう。
研究者らは、超常現象を研究する事によって、築き上げてきた名声を貶められてしまうのですが、彼らの信念は揺るぐことはありません。外部からの止まない批判、意見の食い違いから起こる内紛、志半ばで命運尽きていく研究者たち。そして、新たに現れる意思を継ぐもの。マーク・トゥエイン、マイケル・ファラデー(こちらはアンチ)といった著名人も登場します。物事を成し遂げようとする人々の、謂わば歴史小説を読んでいるかのような興奮を味わえます。トーマス・エジソンの「人間の脳は機械にすぎない」という言葉が無味乾燥に聞こえてしまうくらい、とにかく科学者魂がアツイ本なのです。
テレパシー、ポルターガイスト、テレキネシスという用語は、この頃創られたんですね。なるほど、勉強になりました。
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