【本の感想】麻耶雄嵩『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』

麻耶雄嵩『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』

麻耶雄嵩『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』は、噂に違わぬぶっ飛んだミステリです。「問題作」と言われるのも宜なるかな。読む前の予習では、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』のオマージュとのことだったので、アンチミステリーの系譜かと思っていました。

・・・で。

素封家の豪邸で起こる連続斬首殺人事件。挑むは探偵 木更津悠也。 どこかで見たような(読んだような)、如何にもな舞台装置といい、ドロドロの人間模様の中で展開される不可能犯罪といい、昭和初期の明快な探偵小説のようではあります。

しかしながら、本作品は一筋縄ではいきません。二転三転(さらに転々)する真相に、読者は唖然茫然とすることでしょう。

不可能犯罪を暴くため、登場する探偵たちは推理を幾度も組み立て直すのですが、どんどん荒唐無稽になっていきます。いやいや、そこまでいったら超常現象でしょう。ところが、衒学的ともとれる書きっぷりに惑わされ、あり得ないというツッコミを入れる事すら忘れてしまいました。 アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』 のような、ロジカルな推理合戦ではないのです。 どこまでも大きくなる風呂敷は、畳んでいるのやら、ほったらかしているのやら。

オレってスゲぇな名探偵 木更津悠也、なかなか登場しない幻(?)の”銘”探偵 メルカトル鮎。デビュー作から、将来のシリーズキャラクターが共演するという荒業です。

探偵役の度重なる交代劇はさておいて、「メルカトル鮎最後の事件」という副題の意味が、本作品の大いなる謎です。これが明らかになったときの衝撃はでかいですね。アンチミステリという表現が正しいのかは分かりませんが、既成の概念をぶっ壊した作品と言えるでしょう。

本作品は、著者21歳のデビュー作です。ならば、一般的にその作品には初々しさを見るのですが、恐ろしいものを読んでしまったというのが実感です(これ以降の作品も恐ろしいんですがね)。

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