【本の感想】麻耶雄嵩『あいにくの雨で』

本の感想 麻耶雄嵩『あいにくの雨で』

思い起こすに自分の高校生活は、平々凡々たるものでした。スポーツや、恋愛、勉強に熱中するわけでもなく、ただただ、家と学校を往復する毎日です。通学するのが当たり前という、中学校の延長の感覚だったように思います。辛くはないが、面白くもありません。そもそも自分には、高校生活を楽しもうという気持ちがなかったんじゃないでしょうか。

そういうわけで、この頃を描いた青春小説を読むと、まるで異次元の出来事のようです。若い頃は、軽い嫉妬を覚えたはずですが、今となっては勿体無い事をしたという後悔の念が強くなってきました。

麻耶雄嵩『あいにくの雨で』は、卒業を間近に控えた三人の高校生を描く青春ミステリです。

架空の地方都市の、うち捨てられた塔で起きた密室状態の殺人事件。被害者は、八年間失踪中の祐今の父親でした。父親は、母親を殺害した容疑で行方をくらましていたのです。母親の殺害現場は、同じく廃墟の塔。

同級生の鳥兎と獅子丸は、過去、現在の二つの事件のつながりに興味を持ちます。やがて、塔で三つめの殺人事件が発生するのですが、今度の被害者は、祐今の祖父の交際相手でした・・・

祐今の窮状に心を痛め、友人の鳥兎と獅子丸が真相究明に乗り出すという展開です。並行して、高校の生徒会組織の権力闘争が描かれるのですが、このまったく異なる二つの流れが、一つに収斂していく様はお見事です。途中、冗長としか思えなかったので、結末のスッツキリ感はなかなかのもの。真相が判明する件では、伏線を張り巡らしながら、綿密にストーリーが組み立てられていたことが分かります。登場人物たちの性格描写が上手くいっているので、殺人の動機に納得性を持たせることができるのでしょう。

青春ミステリにありがちな青臭さはあるものの、成長の側面は屈折して描かれており、感慨深いものがありました。読了した時の、苦味を伴なった切ない余韻が良いですね。

確かに、本作品の密室殺人の結末としては、未消化な部分はあります。しかしながら、読むべき本筋はそちらではないのだろうし、(好意的に見れば)未消化であるからこそ、ストーリーに厚味が出ているとも考えられます。

登場人物たちの賢さと高校生活の充実ぶりに、自分自身のいたらなさを改めて痛感してしまったなぁ。

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