【本の感想】エドワード・D・ホック『怪盗ニック登場』

エドワード・D・ホック『怪盗ニック登場』 NO IMAGE

EQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)の常連で、アンソロジーの編纂も手がける故エドワード・D・ホック(Edward D. Hoch)。800以上の短編作品をものしているので、邦訳された海外アンソロジーでもちょくちょくお目にかかる作家です。

ホックはレオポルド警部や、創元推理文庫でお馴染みのサム・ホーソン博士、オカルト探偵サイモン・アークら多くのシリーズ・キャラクターを生み出しています。なかでも人気の高いのが『怪盗ニック登場』で初登場となるニック・ヴェルヴェット(ちなみに『ホックと13人の仲間たち』序文によると、著者が一番愛着があるのはサイモン・アークだとか)。

ニックは、二万ドルの報酬で依頼を受け、金品に値しないないものだけを盗むという風変わりな泥棒です。クールで飄々とした立ち振る舞いで、完璧な手際で盗みを働き、きっちりと報酬を手に入れます。

自分の大好きな不運な犯罪プランナー ドートマンダー(ドナルド・E・ウェストレイク『ホット・ロック』他)とは対局にありますが、実に魅力的なキャラクターなのです。

ニックものが素晴らしいのは、30頁前後の短編ながら、ラストにサプライズが用意されていることでしょう(アタリ、ハズレはあるのだけど)。

各短編の原題は、必ずThe Theft ofで始まるし、ストーリー展開はだいたい以下のフォーマットに則っています。

①依頼人がニックに盗んで欲しいものを告げ報酬を交渉する。
②依頼を受けたニックが現地調査をしながら作戦を検討する。
③なぜか妙齢の女性が登場する。
④いよいよ盗みを決行すると事件が発生しニックがピンチに陥る。
⑤事件を解決し報酬を手に入れる(回収する)。

ワンパターンといえばその通りなのですが、こういう鋳型にはめ込んで読ませる作品を作り上げてしまうところが、ホックの驚きの名人芸です。

さて、本書の獲物はというと、動物園の斑の虎、ビルに取り付けられている会社のロゴ3つ、大リーグのひとチーム全員、刑務所の囚人が壁に掛けているカレンダー、メリーゴーランドの回転木馬、博物館の恐竜の尻尾、殺人事件の陪審員全員、皮張りの棺桶、感光した映画のフィルム、カジノのカッコウ時計、ゴミ袋です。

そのなかでも秀逸なのは、何を盗んで良いかすらわからないもの。依頼人が、依頼品を告げる前に面会謝絶になってしまうのです。それでもきっちり盗んでくるのだからすごい!

さて、本作品集はハヤカワ文庫版です。創元推理文庫で全集が出ているのですが、全く手が出ていないんですよね(ホーソン博士も読めていないのに、サイモン・アークも全集で出ちゃったなぁ)

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