【本の感想】佐賀潜『華やかな死体』
1962年 第8回 江戸川乱歩賞受賞作。
1962年の江戸川乱歩賞は、佐賀潜『華やかな死体』と戸川昌子『大いなる幻影』が同時受賞で、塔晶夫(中井英夫)『虚無への供物』、天藤真『陽気な容疑者たち』が選外なので、激戦だったと想像します。
講談社の江戸川乱歩賞受賞作全集は、2作品が収録されているのと、解説が結構面白いのが魅力。ただ、本書の桐野夏生のエッセイはいただけません。読んでいるの???
『華やかな死体』は、若き検事の姿を描いたミステリです。
会社社長 柿田高信の撲殺事件を担当することとなった千葉地方検察庁 検事城戸明。城戸は、先の事件での名誉挽回とばかりに、容疑者 人見十郎の起訴、そして有罪を勝ち取ることに意欲を燃やしています。捜査により証拠固めで、圧倒的な検察有利の状況でしたが、公判が始まると、老獪な弁護士 山室竜平の反撃が開始されて・・・
弁護士でもある著者自身のキャリアを生かした法廷物で、さすがに臨場感がたっぷり。検事四年目の城戸と、法廷戦術に長けた山室の攻防戦が見所。城戸のコンプレックスと野心が、公判を追うごとに一喜一憂する姿と重なっていて面白いのです。
すっかり感情移入してしまって、不利な状況にイライラさせられっぱなし。登場人物それぞれの思惑が、思わぬ方向へ事件の結果をもっていくのですが、このあたりの展開の仕方が実に巧緻です。ラストは、少なからずストレスが溜まってしまいますね。派手さはないけれど、法廷劇が好きな方にはおススメできます。本書に収録されている『大いなる幻影』ともども傑作です。
検事総長の人事に関して、あまりよろしくないニュースがあった昨今。60年ほど前は、まさに秋霜烈日、本当に誇り高い職業だったのだなぁと感嘆してしまうよ。
本作品が原作の、1963年 公開 宇津井健、叶順子 出演『黒の報告書』はこちら。