【本の感想】小倉昌男『経営学』

小倉昌男『経営学』

経営者が書いた回顧録を読むと、鼻高々なものが多く、辟易するので進んでは読みません。読書会で取り上げられて、渋々という読み方になりますか。ここ何年かではエド・キャットムル『ピクサー流 創造するちから』フィル・ナイト『SHOE DOG (シュー ドッグ)』でしょうか 。『ピクサー流 創造するちから』は、学ぶべき点はありましたが、『SHOE DOG (シュー ドッグ)』はなかなかのつわものでした。(リンクをクリックいただくと感想のページに移動します

小倉昌男『経営学』は、クロネコヤマトの名を一躍世に知らしめた名経営者 小倉昌男氏の自著です。

あちらのオラオラ系からすると、至極全うな経営哲学に見えますね。

本書では、収益確保が難しくなってきたトラック運送業から撤退し、ヤマト運輸を宅配業への転身させたプロセスが著されています。「第三部 私の経営哲学」で掲げた経営リーダの10の条件を、まさに体現した経営手法は、刮目せざるを得ません。

当時、誰もが手を出さなかった宅配業への着眼点や、それを採算ベースに乗せるための戦略ストーリー、全員経営のための組合を含む人の掌握術。うぬぬ・・・才気煥発とはこういうことを言うのでしょう。

何より、経営者としての度胸というか、肝の据わり方が凄いのです。著者は、長年の顧客であった三越から、経営の理不尽さを理由に袂を分かち、監督官庁である運輸省の倫理観のなさを憤って行政訴訟を起こします。(三越の社長は、三越事件のあの人ですね)

いやはや ・・・

一方で、著者は、社員個々人への温かい目線を常に持ち続けています。企業が、地域社会へ貢献すべきという理念や、随所にみられる舌鋒するどい経営者としての心構えもしびれるでしょう。地域貢献は、今でこそ誰しもが標榜しますが、当時の事を顧みると、先駆けと言えますね。

本書を読むと、トップダウンというのは、かくあるべきということが良く理解できます。実際には、著者の側近は大変だったのだろうと想像するけれど、出逢ってみたい経営者像ではありますね。