【本の感想】パトリック・ルエル『長く孤独な狙撃』

パトリック・ルエル『長く孤独な狙撃』 NO IMAGE

1987年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第7位。

パトリック・ルエル(Patrick Ruell)『長く孤独な狙撃』(The Long Kill)は、元暗殺者を主役に据えたミステリです。レジナルド・ヒルの別名義での作品になります。

殺し屋ジェイスミスは、ターゲットの暗殺に失敗し、引退を決意します。右目に異常をみとめ、長距離狙撃が困難になったのです。暗殺の舞台となった渓谷地帯に魅せられ、ジェイスミスは、ここに腰を落ち着けることにします。そして、この土地で出逢った未亡人アーニャを愛するようになるのでした。しかし、ジェイスミスは、アーニャが暗殺し損ねたターゲット ブライアントの娘だと気付きます・・・

本作品は、何といっても、詩情あふるる、イギリスの地方都市の描写が秀逸です。恋人を惨殺されたのを契機に、暗殺者の道を歩み続けてきたジェイスミス。前半は、ジェイスミスと、彼を取り巻く人々の交流がつづられていきます。ここでは、地方都市ならではの、心をなかなか許さない人々とのやり取りが、巧く描かれています。

とって付けたような恋愛関係が鼻につく英米ミステリにあって、本作品は、ジェイスミスとアーニャの心の葛藤は、物語の中核をなしています。

アーニャのために、父ブライアントを護ろうとするジェイスミス。しかし、当然のことながら、自身は、ブライアントを狙ってたことを告げることができません。

何故、ブライアンとはターゲットになっているのか。

ブライアントの過去を探り始めたジェイスミスの前に、次の暗殺者が姿を現します。

途中までゆっくりとした展開で、派手なアクションを期待するとストレスが溜まるでしょう。ラストは、ちょっとした驚きの真相が待っているので、じっくりと読み込むべき作品なのでしょうね。余韻を残す幕の引き方が素晴らしい、人間ドラマに仕上がっています。

邦題の『長く孤独な狙撃』は”長く”は長距離狙撃のこと?

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