【本の感想】グレゴリー・マクドナルド 『フレッチ 殺人方程式』

グレゴリー・マクドナルド 『フレッチ 殺人方程式』(原著)

1975年 エドガー賞 処女長編賞受賞作。

グレゴリー・マクドナルド(Gregory Mcdonald)『フレッチ 殺人方程式』(Fletch)(1974年)は、口八丁手八丁の如何にもアメリカンな新聞記者が主人公のミステリです。

薬密売やら委託殺人やら離婚手当不払いやら小切手偽造やらに巻き込まれていくものの、持ち前の図々しさとハッタリで取材を敢行し、あれよあれよと一気に解決してしまいます。スピード感があり爽快感は味わえるものの、このご時世ではタブーなエピソードがてんこ盛りですね。

ビーチで麻薬密売の現場を張っているアーウィン・フレッチャー“フレッチ”に、《コリンズ・エビエイション》の若き取締役副社長アラン・スタンウィクが声をかけます。フレッチをビーチにたむろする者と勘違いしたスタンウィックは、報酬二万ドルで余命いくばくもない自身の殺害を依頼するのでした。日付と殺人方法を細かく指示するスタンウィック。フレッチは快諾しつつ、スタンウィックの周辺を嗅ぎまわります。

一方でフレッチは、麻薬密売の記事をものにしなければなりません。売人のファット・サムは、ビーチから一歩も動くことなく、クスリを仕入れています。何としても入手ルートを掴みたいフレッチ。上司との折り合いが悪く、タイムリミットが突き付けられているのです。

本作品は、謎の殺人依頼と麻薬密売という二つ事件を、ある時は身分を詐称し、ある時は噓八百を並べたて、真実に迫っていくフレッチの記者魂が見所です。15歳のヤク中クララ・スノーと同衾したり、オーバードースで死亡したクララを放置したり、マリファナをくすねた警官からブツを譲ってもらったり、スタンウィックの女房といい仲になったりと、現在では、このなんでもアリアリはNGでしょう。1970年代って、大らかだったのね・・・。登場人物たちのキャラも、当時のアメリカンなドラマを彷彿させます。

フレッチが調べるほどにスタンウィックは頑健そのもの。ジョーン・コリンズを結婚し婿養子に入って舵取りをしている《コリンズ・エビエイション》も順風満帆です。死ぬ理由など見あたりません。しかし、フレッチは、スタンウィックの行動に矛盾があることに気付き始めるのでした・・・

フレッチ自身はこの時窮地に陥っています。二人の元妻から慰謝料の滞納を訴えられ(なのに復縁を迫られている)、小切手偽造の罪を暴かれ、そして、社命により嫌々ながらブロンズ・スター授与式に出席しなければなりません。裁判所への出頭要請が同日に出されるという大ピンチ。クビか収監か。それでもフレッチの捜査は、止まりません。

クライマックスは、麻薬密売の意外な黒幕を突き止め、スタンウィックの目論見を暴き、自身ピンチを挽回する、一気呵成の展開です。うん、うん、痛快!ラストは、小気味良い限りです。

なお、フレッチはシリーズ化されており、第二弾『フレッチ 死体のいる迷路』は、エドガー賞 ペーパーバック部門の受賞作です。(リンクをクリックいただくと感想のページに移動します

本作品が原作の、1985年公開 チェビー・チェイス、ティム・マシスン 出演 映画『フレッチ/殺人方程式』はこちら。

1985年公開 チェビー・チェイス、ティム・マシスン 出演 映画『フレッチ/殺人方程式』

(注)読了したのは角川文庫の翻訳版フレッチ 殺人方程式で、 書影は原著のものを載せています 。

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