【本の感想】セバスチアン・ジャプリゾ『シンデレラの罠』

セバスチアン・ジャプリゾ『シンデレラの罠』

1963年 フランス推理小説大賞受賞作。

セバスチアン・ジャプリゾ(Sébastien Japrisot)『シンデレラの罠』(Piège pour Cendrillon)は、主人公が被害者であり、加害者であり、証人であり、探偵でもあるという、一人四役を演じるミステリです。

主人公その人には、悪意はない、というのがポイント。なるほど、こうすると四役を演じられるのか、とは思うものの、この目を引く一人四役という煽り文句(?)が途中でネタバレをしてしまうのは否めず・・・

本作品は、ミシェール・イゾラ(通称ミ)が病院で目覚めるシーンから幕を開けます。火事で大けどを追い、頭蓋骨骨折の瀕死の状態で発見されたのです。自身に関する記憶が抜け落ちてしまった”ミ”。全身を包帯で覆われたニ十歳の娘は、後見人ジャンヌ・ミュルノが、病院の反対を押し切り早々に連れ帰えろうとしているのを知ります。

ジャンヌから語られるのは、”ミ”の、男性関係に奔放で、アルコールに溺れ、金の無心を度々繰り返す素行の悪さです。自身の振舞いに怖気を震うほど、事故後に性格が変わってしまった”ミ”。さらに、ジャンヌは、事故の際、”ミ”の親友であるドムニカ・ロイ(通称”ド”)が、命を落としたことを告げるのです。

”ミ”は、裕福な伯母 故サンドラ・ラファルミ(ミドラおばさん)の莫大な遺産の相続者です。ジャンヌは、全てを悟ったように、”ミ”に芝居を続けるようにアドバイスをします。この辺りから、ジャンヌが別人であることが、読者に提示されていきます。うーむ、あまりにも露骨。ゆえに、素直に乗っかっていけないことろが難です。絶対、捻ってくるだろうという予感がぷんぷんします。

”ミ”は、恋人フランソワ・ルッサンと会うのですが、高まるのは自身が”ミ”であることの違和感。事故の原因がジャンヌの作為ではないか、という疑いも生じ始めます。”ド”と”ミ”の出会い、”ド”の”ミ”に対する憧れ似た感情、そして憎悪・・・と、記憶が蘇ってきた”ミ”。ジャンヌは、”ミ”を操ろうとするのでした。

本作品の結末は、予想が付くので驚きは大きくありません。”ミ”の動機が何であったのか、はネタが割れるまで判然としませんが、ちょっと無理があるような・・・。英米ミステリとは違う、おフランスらしい味わいは堪能できるでしょう。タイトルの意味は、ラスト一頁で明らかになります。ここは、おしゃれ。

1963年 公開 ダニー・カレル、マドレーヌ・ロバンソン 出演 映画『シンデレラの罠』はこちら。