【本の感想】ウィリアム・ベイヤー『すげ替えられた首』

ウィリアム・ベイヤー『すげ替えられた首』(原著)

1986年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第6位。

ウィリアム・ベイヤー(William Bayer)『すげ替えられた首』(Switch)(1984年)は、エドガー賞受賞作『キラーバード、急襲』に登場するフランク・ジャネック警部補が主役のサイコミステリーです。(リンクをクリックいただくと感想のページに移動します

引退した先輩刑事の自殺の報を受け、傷心するフランク・ジャネック警部補。葬儀に出席したジャネックは、上司から殺人事件の捜査を命じられます。それは、ほぼ同時に殺害された女教師と、娼婦の刺殺事件でした。住んでいる場所も、境遇も違う二人の女性。彼女らを繋ぐものは、首が切断され、互いにすげ替えられていたことだった・・ ・

本作品は、この猟奇的なすげ替えられた首事件と並行して、先輩刑事の自殺の謎を解明していくという趣向です。2つの事件に直接の関係はないのですが、ジャネックが捜査を担当することになった隠された意図が、彼の有能さを証明することになります。

猟奇殺人事件の異常性に目が引かれていまいますが、捜査は足を使ったもので、本作品はいたって正統派の警官小説なのです。犯人の思考を予測し、徹底的に証拠を拾い集めるという、過程が描かれます。ジャネックの個人技より、組織マネジメント力の描写に力点が置かれているように読み取れます。前作『キラーバード、急襲』では、”俺が、俺が”の気質でしたが、あの悲惨な結末で大人になりましたか。

前半は暗中模索が続いて実にじれったいのですが、後半から芋づる式に新たな証拠は発見されてスピード感が増します。謎解きや意外性は皆無なので、犯罪捜査そのものをじっくり楽しみたい方にお薦めです。ただ、ありがちなロマンスは大目にみるとして、カタルシスは今一つでしょう。

さて、フランク・ジャネックはシリーズ化されていて『暗闇に咲く花』『鏡の迷路』と続きます。ヒロインのキャロラインとジャネックの仲が気になるので、機会があったら手に取ってみよう。

(注)読了したのは扶桑社ミステリーの翻訳版『すげ替えられた首』で、 書影は原著のものを載せています 。

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