【本の感想】ジョナサン・ケラーマン『大きな枝が折れる時』

ジョナサン・ケラーマン『大きな枝が折れる時』(原著)

1986年 エドガー賞 処女長編賞受賞作。
1986年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門第7位。

ジョナサン・ケラーマン(Jonathan Kellerman)『大きな枝が折れる時』(When the Bough Breaks)(1985年)は、アレックス・デラウェア シリーズの第一弾です。

このシリーズも出版社を変えながら翻訳が続けられ、ある時、日本国内での翻訳出版がなされなくりました。本作品に続く『歪んだ果実』『グラス・キャニオン』を読むと児童虐待といった重いテーマが底流にあって、シリーズを追いかけるのはしんどくなるのかもしれません。

アレックス・デラウェアは、仕事に燃え尽き、33歳で現場を引退した小児専門精神科医。ある日、旧知の殺人課刑事マイロから、殺人事件の目撃者メロディを診て欲しいと相談を受けます。メロディは、精神的な疾病を抱えていたのでした・・・

本作品も、児童虐待をテーマとしています。ただ、軽妙な会話やテンポのいい展開が、重苦しい雰囲気を和らいでくれてはいます。

精神科医で空手の使い手というアレックスの設定は、違和感があるのですが、本作品のアクションシーンは、なかなかの見せ場です。ゲイのマイロ刑事、恋人のロビンなど、アレックスを取り巻く登場人物たちも魅力的。

事件の解決に向かって、錯綜した人間関係が解きほぐされていくと共に、嫌な奴らがヘコんでいくのは実に爽快です。

圧巻は、ラストに判明するメロディについての驚愕の事実。ここは、予測不可能で、えー!っとなること間違いなし。マザーグースの子守唄 Hush-a-byeからとったタイトルが、深い意味を持っていることに気付きます。

シリーズとして読み続けていきたくなるような、幕開けとして余韻を残す、力強い作品ではありますね。

(注)読了したのは扶桑社ミステリーの翻訳版『大きな枝が折れる時』で、書影は原著のものを載せています。