【本の感想】ウィリアム・ベイヤー『キラーバード、急襲 』

ウィリアム・ベイヤー『キラーバード、急襲 』(原著)

1982年 エドガー賞 長編賞受賞作。

ウィリアム・ベイヤー(William Bayer)『キラーバード、急襲 』(Peregrine)は、ハヤブサを操る殺人者とそれを追う女性TVキャスターを描いたサスペンスです。

著者のシリーズキャラクターであるフランク・ジャネック警部補の初登場作品。ちなみに、ジャネックものの翻訳版では『すげ替えられた首』が、週刊文春ミステリーベスト10にランクインしています。

<チャンネル8>の女性レポーター パム・バレットは、上司ハーブになじられ、仕事に煮詰まっていました。そんな時、スケートリンク上で女性が巨大な鳥に襲われ死亡する現場へ偶然居合わせます。すかさず、スクープ写真をものにしたパム。パムは、この事件のニュース報道で一躍有名になります。手の平を返してパムを持ち上げるハーブは、この巨大な殺人鳥のレポートを継続するよう指示するのでした。

そんなパムにハヤブサと名乗るものから犯行声明がきます。犯人しか知り得ない情報に、色めき立つ報道現場。パムは、鳥類専門家カール・ウェンデル、そして鷹匠ジェイ・ホランダーに助言を求め、巨大な鳥がハヤブサであることを突き止めます。程なくして、ジョギング中の女性が襲われる第二の事件が発生し・・・

本作品には、ハヤブサを意のままに操る殺人者、という無敵ともいえるキャラクターが登場します。獲物たる人を殺害し、大空へ飛び立ってしまうハヤブサは、殺人者の痕跡を残しません。この殺人者をどのようにして捕まえるのか、興味津々です。

この事件に挑むは、フランク・ジャネック警部補と相棒のマーシエッティ刑事。相棒を撃った過去から逃れられないジャネックは、でかい事件を扱いたいと願っていました。しかし、パムとハーブの<チャンネル8>チームと、ジャネックの事件を巡る丁々発止が、解決を遅らせる始末。さらに三人目の犠牲者が・・・

本作品は、ジャネックよりも、上昇志向の強いキャリアウーマンとしてのパムにスポットが多く当たっています。世に認められるほどに、華やかな舞台から引き返せなくなるパム。事件を追ううちにジャネックよりも早く真相に近づいていきます。

<チャンネル8>が招聘した日本の鷹匠ナカムラ・ヨシロウと、ハヤブサの対決は見ものです。ナカムラのクマタカ対ハヤブサの空中戦は、臨場感たっぷり。敗れたナカムラが切腹して果てるという、ステレオタイプな職人気質もストーリーを盛り上げます。

もうこれは、殺人者が墓穴を掘るパターンしか解決には向かわないのが、残りの頁数から分かるでしょう。読者には、早々に殺人者が誰かが、明らかにされているので、どうドジを踏むかに注目です。

殺人者がパムに執着していることを知り、パムを囮にするジャネック。一方、殺人者は、ナカムラとの闘いで傷ついたハヤブサがミスを犯したことで、自らが証拠を残す犯罪を犯してしまいます。そして、ついに魔の手がパムに・・・とクライマックスが訪れます。

(遅ればせながら)真相に辿り着いたジャネックが、殺人者の元へ踏み込み、そして見たものとは何か・・・。う~ん。これは何とも後味の悪い結末。衝撃的ではあるのですが、このあたりの殺人者の心理は、掴み難くはあります。

本作品は、ジェフリー・ディーヴァーならば同じ設定でも、どんでん返しをいくつか盛り込んで、よりスリリングに仕上げてくれたはずです。なんだか、ものすごく惜しい出来なのですよ。

(注)読了したのはハヤカワ・ノヴェルの翻訳版キラーバード、急襲で、 書影は原著のものを載せています 。

  • その他のウィリアム・ベイヤー 作品の感想は関連記事をご覧下さい。