【本の感想】泡坂妻夫『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』

泡坂妻夫『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』

1987年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第6位。

泡坂妻夫『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』は、シリーズ・キャラクター ヨギ・ガンジーが主役の長編ミステリです。

ドイツ人とミクロネシア人と大阪人の混血にして、ヨーガと奇術の達人 ヨギ・ガンジー。弟子の不動丸と美保子を伴った恐山の参詣途中、イタコの真似事をしたことから、宗教団体の信者失踪事件に関わりを持つことになります。

80歳にならんとする卓越した霊能者 桂葉華聖に率いられた信徒数100万人の宗教団体 惟霊講会。失踪者が残した、教典『しあわせの書』を追って、ガンジー一行は、祭事で賑わう講会へ向かいます。

登場人物たちの会話が中心となってストーリーが展開するので、サクサクと一気に読みすすめることができます。本作品は、(未遂はあっても)殺人が発生しない軽いタッチのミステリです。

前半、死亡したはずの教団関係者が目撃されるといった謎が提示されるものの、淡々としていてインパクトが少ないかもしれません。見所は、次期教祖を決定するための断食修行からでしょうか。二人の候補者のうち誰を教祖にするか、ガンジーが審判をおこなうことになるのですが、『しあわせの書』を含めて、いくつかの謎がいっぺんに氷解する仕掛けです。

伏線はきっちりしているので、読了した後の満足感は得られるでしょう。教祖継承問題の意外な黒幕あり、奇術師でもある著者ならではの趣向ありです。本書そのものへの遊び心=トリックに気付くと唸ってしまいます。断食修行のお作法そのものもお勉強になりますね。

第一短編集『ヨギ・ガンジーの妖術』を読んでいないからか、自分には残念ながら、ガンジーのキャラクターがいまいちピンときませんでした。胡散臭いが、憎めないヤツというところでしょうが、すんなり入ってこないのです。あまりにも短時間で読みきったので、食い足りない感が残っちゃいましたか。